オーディオブックの聴き放題で、【書籍】社会学史が集中して聞かないといけないせいで作業のBGMとしていまいちだったので、 もうちょっと気軽に聞ける本として選んでみたもの。 けれど聞いてみるとタイトルからイメージしていたよりもずっと本格的な内容だ。
本当にちゃんとした栄養学の本という感じで、いわゆる健康本とはちょっと違う感じだ。 逆にこれ、本格的過ぎて需要あるのか?と心配になってしまう。
ただ栄養学の知識を得ておくのは有意義な事だとは思うので、このまま聞いていきたい。
この本は本当に、健康本の見本として皆に見習って欲しいような出来の良さだな。 ある程度わかっている事、研究中だが考えられている事、まだ良くわかってない事、疑わしい事がわかっているものがちゃんと区別されていて、 背景の説明も自分の知る生化学、細胞生物学の知識と矛盾しないので、自分の知らない事についてもかなり信頼できそうに思う。 そして自分の知らない事も結構多い。
良くわかってない事や疑わしい事を変な思い込みで恐怖を煽ったりしないのも良いね。 コラーゲンのあたりのバランスのとれた解説は素晴らしいと思う。
聞き終わった。良い本だった。ぜひ聴くべき本だとは思う。
だが、まともな本であるがゆえに、「これが良い」とか「これが悪い」という要素があまりなく、 いろいろなものをバランス良く食べよう、以外の結論が無いため、 日々の食生活に活かせることがあまり無い。 少し極端になってしまっている部分を戻すか、程度の結論しか出せない。
でもそれこそがまともな本である証に思う。何かをわかりやすく悪者にするでもなく、けれど全てが詐欺だというのでもなく、 事実でない風聞を淡々と否定していき、 効果があると分かっているものがどの程度分かっているかも淡々と説明していく。 動物実験で分かっているが人間では分かっていないもの、 体内の機序が分かっている物質だが、食べたものとの関係は良く分かっていないもの、 機序は良く分かってないが効果は実証されているもの、 といった区別がちゃんとされている。素晴らしい。
しかもまともな生物学の知識に基づいて説明する。 クエン酸回路やベータ酸化などの基本的な話から、栄養との関連を語り、それぞれの栄養素の役割を説明していく。 また関連する、良く言われる「健康に良い」という物質、例えばポリフェノールやGABAやEPAといったものが、 どういう効果がどう認められていて、どの程度良く分かっていないのか、なども説明していく。 健康食品的なものへの理解はだいぶ深まる。
自分は細胞生物学と分子生物学はかなり詳しい方だと思う。一方で組織より上の話はわからない。 そんな自分の知識と照らし合わせても、自分の知ってる範囲でおかしいことは無かった。これは珍しいことだ。 著者も相当しっかり生物学を勉強していることが分かる。 ちゃんとした専門家なのだろう。 その上で自分の知らない範囲の話も結構あるので、 それらについても「たぶんそうなんだろうな」と思いながら素直に聞ける。
ただ、それは逆に、生物学で良くわからないことは良くわからない、という態度にもなる。 そして人体は複雑なので生物学では良くわからないことも多い。 結果として、普通の健康本と比較すると圧倒的に「分かっていない」という度合いが大きくなる。 これは誠実な態度だと思うけれど、 それがゆえに「この本は売れ無さそうだな…」という気分にもなる。 自分としてはこういう本をこそ応援したいけれど。
生物とかの知識を食事とかに応用しようと思った時にとても良い本だと思った。 生物学の教科書の素晴らしい副読本と思った。 これをもとに生物学を復習したくなる。
農薬とか添加物をポジティブに評価しつつ天然のバクテリアなどを恐れるのも、ちゃんと生物を勉強した人間特有の感覚だよなぁ。 バクテリアをちゃんと勉強して、それに対する恐怖を味わったことがある人間だけが持てる感覚。 706x細胞生物学だとリステリアとかサルモネラがその辺だ。Salmonella - CellBiology706x。 最近作られたものは全部悪くて昔ながらがいいに違いない、という思い込みを疑似科学的に頑張って正当化する本(【書籍】あなたの体は9割が細菌とか【書籍】科学者たちが語る食欲とか)とは好対照に思う。
全体としては、しっかりとした学問的な背景に裏打ちされた素晴らしい本だが、そうであるがゆえに日々の食生活で活かせる要素はあまり無い、 という感じの本だった。 全体的に知識が底上げされはするが、何か凄く強い結論がある訳では無い。
ブルーバックスの評価はだいぶ上がった。 ブルーバックス、生物系はかなり良い本が多いな。