前: バクテリアのTranscription入門
- intercalate 挿入する、(うるう日を)入れる
バクテリアのTranscriptionのメカニズムとしては、以下の4つに分けられる。
- initiation
- elongation
- termination
ここではまずInitiationについて扱う。
Initiationの4つのステップ
initiation は4step。
- Closed Complex Formation
- RNAP holoエンザイムの動員の事をそう呼ぶ
- promoter recognitionのプロセス
- RNAP holoが最初に結合する過程
- RNAポリメラーゼとシグマ(と場合によってはα-CTD)とプロモーターとの相互作用で媒介される
- Open Complex Formation
- Unstable Ternary Complex Formation
- Stable Ternary Complex
- プロモーターから離れてRNAの合成によるelongationが始まる
α-CTDについてはバクテリアのTranscription入門でもやった通りUP elementに結合する。
dsDNAの最初のunwindが起こる。
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- 典型的には-11から+3にかけてunwindする(TSSが入っていることに注目)
- この作用はRNAP holoとDNAの相互作用で駆動される
- βとβ’がDNAを包み込む
- シグマ1.1 ドメインが50Åほど移動する
- これは負に帯電している領域で、これによりssDNAの代わりとなっている
- 移動する事でテンプレートstrandのbinding siteからexitする
- シグマ2 (シグマの二番目のドメイン)がノンテンプレートの方のssDNAに結合する
- ノンテンプレートstrandの2つの塩基、A-11とT-7が二重らせんの外側(逆向き)に裏返る
- シグマ2とssDNAのバックボーンが結合する
- この結合はdsDNAとinconsistentなので、より柔軟なssDNAとなって適合する形となる
- このOpen Complex Formationは外部からのATPを必要とせず、rNTPを必要としない
- このOpen Complex Formationまで来ると、以後はほとんど確実にtranscriptionされる(transcriptionのcommitted step)
- 結合がめちゃくちゃ強くて、transcriptを進めてterminateする以外の方法ではなかなか離れない
Open Complex Formationで-11のAと-7のTは凄く重要だが、その周辺もAとTが多い。
RNAの合成を開始するステップ
- 2 rNTPsがActive Siteに結合
- 5’末端の一番最初のrNTPはいつもプリン(A/G)
- 多くはrATP
- 最初の8〜10NTs を合成したあとに、一旦合成が停止される>abortive initiationとかabortive transcriptsと呼ばれる
このabortive initiationは何回も起こり、実際にpromoter escape(合成が開始)が起こるまでに50〜100回くらい行われる。
なぜabortive transcriptsが起きるのか?
- promoterの識別で使われるRNAP holoとの強い相互作用が、promoter clearanceを妨げるから。
- シグマ3, シグマ4のlinker regionがRNA exit channelに居座っていて、RNAが出ていくのを防いでいるから。
promoter clearanceとは、RNAP holoがpromoterから離れていく事。
Stable Ternary Complex
ここからelongationが始まる。
UnstableからStableへの移行については、abortive transcriptionがどういうモデルで行われているかに関わっている。
abortive transcriptionには3つのモデルが考えられている。(GoogleDriveに保存したMolecularBiologyResourcesも参照)
transient excursions model
ゴムに繋がれているかのように、8〜10 NTsを合成したらRNAPが戻るモデル。
inchworming model
RNAPがびろーんと伸びるモデル。これもどうにかして-10とシグマ2との相互作用はどうにか離れるメカニズムが必要となる。
scrunching model
ssDNAがRNAPの内側に押し込まれるように少し移動して8-10NTs程度の合成が進むモデル。
このあとは、入り口側がより戻されてdsDNAが復活してRNAが離れるか、それとも後ろ側のDNAがより戻されて合成が進むかになる。
FRETを使ってどのモデルか調べる
FRETについては以下を参照。
NuclearPoreの輸送メカニズム - CellBiology706x
FRETはセットアップに5年くらい掛かる大変な実験らしい。
Transient Excursions Modelかの確認
通常のRNAPの中にfluorophoreのついたunnatural amino acidというのを混ぜる。
もう一つのfluorophoreをDNAの-10と-35の特定の場所に置いて、
transient excursions modelならば両者は離れるのでFRETしなくなるはず。
実験としては6bpだけ合成されるようにヌクレオチドを足す。
結果は変化無し。
Inchworming Modelかの確認
次にinchworming modelを確認するためにもっと前の部分にfluorophoreをつけてみたが、
これも変化無かった。
Scrunching Modelかの確認
このケースではDNAの前方と後方にfluorophoreをつければ良いのでunnatural amino acidをつけるよりも簡単だとか。
-35と-10の間に一つ、start sideのdown streamにもうひとつをつける。
これは合成を進めるとFRETが起こった!
どうもScrunching Modelの模様。
8-10 bp程度が合成されると、何が起こるのかを考える。
2つの可能性が考えられる。
- down streamがもう一度より戻ってdsDNAとなる
- -10方向のupstreamがより戻ってdsDNAとなる>プロモーターescape
この後者のrewindの力が、-35や-10との強固な結合を引き剥がすんじゃないか。
この場合、-10付近のヌクレオチドとRNAPの結合の強さがpromoter escapeのしやすさに影響を与える事になる。
CGペアが多い方がRNAPとの結合は弱く、rewindでより多くの力が生まれてescapeしやすい。
Initiation時に発生するイベントを調べるAssayたち(これまで出てきたの)
- Closed Complex Formation
様々なDNA Binding Assayたちが使える。Gel Shift Assay, Template Association Assay, DNAse Footprintingなど。
- Open Complex Formation
DNA unwinding assay(この場合はKMnO4を使う、RNAPのactive siteまで入り込めるような小さな分子じゃないと使えないから)
- UTC (Unstable Ternary Complex)から STC(Stable Ternary Complex)への遷移
これは難しいので既存の手法ではうまく行かない>新規のAssayへ
Assaysを参照
Initiationを調べるAssay達(新規の)
UTCからSTCへの遷移を調べたい。しかし両者の違いは良く分からないのでこれまでのassayではうまく調べられない。
そこで以下に着目する。
- UTCは8〜10 ntのRNAを合成
- STCはFull LengthのRNAを合成
そこで合成されるRNAの量と長さを測ると、両者の比率が分かる。
基本的なアイデアとしては、1 round分のIncorporation AssayをしたあとにGel Electrophoresisを行い、 「8〜10 nt 転写 : Full Lengthの転写」 の比を求める。
そのためには、1 round きっかり測りたい。
そこで使うのがheparin。
Heparin
heparinは普通はblod clottingの抑止に使われるものだが、このassayでも使われる。
heparinはPoly Sulfated Poly Sacharide。一方、DNAはPoly Phosphate Poly Sacharide。そこでheparinは塩基の無い疑似ssDNAとしての役割を果たす。
heparinがあると、RNAPホロは、Closed Complex Formationのステップが抑止される。
でも転写は邪魔しない。ひとたびOpenまで行ったらそこから先はheparinが邪魔する事は出来ず、転写が開始される。
Heparinを使ったTemplate Challenge AssayのようなAssay
- まずRNAPホロをDNAのプロモーターに結合させてOpen Complex Formationまで進める。(ここまではrNTP無しで行ける)
- rNTPとHeparinを加える
- Open Complex FormationのRNAPホロはabortive transcriptionとFull Length Transcriptionを行う
- ひとたびFull Length Transcriptionが行われてDNAから離れると、RNAPホロとHeparinが結合し、もう一度Closed Complex Formationを形成するのを妨げる
- 合成を行い、結果をDenaturing Gelで分離、測定
ここでラベルはrNTPにつけるので、長さによってシグナルの違いがある事に注意。
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バクテリアにおけるTranscriptionのElongation