複製の始動ではE. coliの話をしたが、真核生物にはさらに細胞のライフサイクルなどの要因が入る。 それらをここで議論する。
タンパク質は似ているが、ゲノムの長さやそれにまつわる複数originの存在などからくる違いも多くある。
複製に関わるタンパク質には類似点が多い。
prokaryotic(E. coli) | eukaryotic(yeast) | |
---|---|---|
複製用のDNAポリメラーゼ | DNA Pol III core | DNA Pol イプシロン(leading)とPol デルタ(lagging) |
DNAプライマーゼ | dnaG | DNA Pol α/primase |
sliding clamp | β/dnaN | PCNA |
sliding clamp loader | ガンマ-complex | RF-C |
initiator protein | dnaA | ORC |
helicase loader(s) | dnaC | Cdc6とCdt1 |
helicase | dnaB | Mcm complex |
イニシエーター。ORCはOrigin Recognition Complexの略。 dnaAのようなものが5つくっついた構造をしている。
ヘリカーゼローダー。Cdc6とdnaCはhomologous (形状や遺伝子に類似性がある、くらいの意味だろうか)。
イニシエーターとヘリカーゼローダーのタンパク質群をまとめてAAA+ ATPaseと呼ぶ。
ヘリカーゼは大きく違っていて、Mcm complexはAAA+ ATPaseの一種だがdnaBはRecA ATPaseという種類の違うATPase。
違いも幾つかある。ゲノムの長さが違う所からくる違い。
E.coli | 人間 | |
---|---|---|
ゲノムの長さ | 4.6x10^6 bp |
2x10^9 bp 、染色体一本につき平均 10^8 bp |
オリジンの数 | 1つ | たくさん |
合成の速度 | 1000 bp/sec | 1000 bp/sec |
細胞分裂の頻度 | 20分に一回 | 1日に一回 |
E. coliは複製に40分掛かるが分裂は20分に一回なので、分裂が起こった後も複製が続いている。
人間は合成の速度から考えると27時間複製に掛かるので、一日の一回には間に合ってない。 これは複数の複製フォークを持つ事で解決している。 なお、実際には複製フェーズ(Sフェーズ)の時間は8時間程度。
Eukaryoticの一つの複製フォーク自体は100 bp/secと合成可能な最大速度よりもだいぶ遅い。
E.coliの複製の始動も参照の事。
なお、7の時点ではまだヘリカーゼはinactiveで、dsDNAにロードされた状態となっている。(後述)
ヘリカーゼがアクティベートされると、そのほかのタンパク質(Sld2, Sld3, Dpb11など)が離れていって、ポリメラーゼもactiveになり、ヘリカーゼは活動を開始する。
ChIP (Chromatin immunoprecipitation)。precipitationは沈殿。
目的のタンパク質のantibodyが必要。 頑張って作るかエピトープタグをつけるか。
G1-arrested cellsを取り出し、formaldehyde(ホルムアルデヒド)を加えて5分とか待つ。 すると細胞膜を通過して「cross links proteins to proteins, and proteins to DNA」するらしい。 cross linkってどういう意味だろう? 橋を架ける、みたいな意味らしい。 タンパク質同士やタンパク質とDNAを自身でつなげる、という感じか。
クロスリンクはそんなに効率的では無く、起こる組み合わせはそんな多く無いとの事。 0.1パーセントとからしい。だからPCRとかのhigh throughputな方法で増幅してやる必要がある。
ググっていたら日本語(?)の解説を見つけた。> クロマチンIP(ChIPアッセイ) - Thermo Fisher Scientific - JP
なるほど、ようするにヘリカーゼとDNAの結合を強固にして離れないようにするという事か。
次にDNAを裁断。 切断した長さが短い方が他のタンパク質の影響も受けづらく、実験の解像度も高くなる。 裁断は普通sonicationを使う。音波を当てる、めちゃおっきな声でscreamingするというが。 え?叫ぶの?
次にIP (immuno precipitate)する。antibodyにビーズをつけて行うのが一般的。 ビーズは寒天かマグネティックなビーズが良く使われる。 プロテインAかプロテインGにつけるとか(何を、どこにかは良く分からなかった)。 そうすると沈殿するらしい。
まとめよう。
一番単純には裁断した直後の母集団とビーズのついたものをmicroarrayする。 ビーズをつけて沈殿させたものの割合が低くても、PCRで増やせば結構良く見える。 母集団を例えばredで、沈殿した方をgreenで色付けして同じ量入れてmicroarrayする。 こうすれば、緑の比率が高い所が結合箇所。 ChIP-chipと呼ばれる。
だがヘリカーゼのようにたくさんのオリジンにくっつくものを分析したい場合はこの手法はたくさんのPCRが必要になっていまいち。 単に沈殿したもののクロスリンクを解除してDeep sequencingするのをChIP-seqと呼ぶらしい。 25bpのビンに区切って、このビンから始まる個数をカウントする。
ORCのbindした場所にはMcm2もbindしている、逆は成り立たない(Mcm2の方が多い)
replication timing profileと並べてみているが、replication timing profileってなんだっけ? 複製がどこから始まるか、のタイミングをどうにか調べたものっぽくて、解像度が低いが実際に複製が始まった場所が分かる。
Mcm2のChIPでは解像度はもっと高いが、一方でoriginとして機能しない所も検出されるので、両者を並べる事でoriginのより高い解像度の予測が得られる。
染色体は、一回のセルのサイクルできっかり一回だけ漏れなく確実に複製される必要がある。
これを達成する為にヘリカーゼのローディングとactivationを別のフェーズで交互に起こるようにしている。
CDKがアクティベーションに必要で、同時にCDKがヘリカーゼのローディングを抑制する。
G1はCDKの活動が非常に少ないのでヘリカーゼのロードは起こるが、アクティベーションは起こらない。
S-MフェーズではCDKが活発に活動するので、ヘリカーゼのロードは起こらないが、アクティベーションは起こる。 オリジンにロードされてないCdc6は分解され、ORCはリン酸化され不活性になり、MCMは核から排出される。