RandomThoughts

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【書籍】はじめてのスピノザ

Contents:
  1. 2024-03-19 (火) 聞き終わり、雑感など
    1. 哲学という学問分野とその意義(はあるのか?)
    2. スピノザを最初に学ぶのはどうなのだろう?
    3. 余談:AIの話はさすがに酷い

amaozn: はじめてのスピノザ 自由へのエチカ

2024-03-19 (火) 聞き終わり、雑感など

オーディオブックで運転しながら聞いていた。 聞き逃した所も多く、あまりちゃんと理解した感じはしないが、 BGMとして聞きつつ雑学を少し学ぶという感じにはなった。

スピノザという哲学者のエチカという著作を中心にスピノザ哲学というものを紹介する本。 自分は全然スピノザを知らなかったので、へー、そういう人なんだ、という気分にはなった。

スピノザはこう言っている、みたいな事がいろいろと述べられているのだが、 あまり説得されるような記述が無いので、 そういっている事はわかったが、ちゃんと理解したという感じもしないし、なるほど、という感じもしない。 著者いわく、スピノザの考え方は他者を説得するものでは無く自身の変容を求めるもの、 との事なのだが、では何かが述べられてそれに共感できない時に、 それはスピノザが間違っているのか自分の変容が十分で無いのかをどう区別するのだろうか? というのが最後まで分からなかった。 だから何か「なるほど」と思えない話があった時に、どう接するべきかの態度が良く分からない。

いろいろな既存の言葉を再定義というか、例えば力こそが本質で力とは〜みたいな説明があるのだが、 この力とは〜みたいな説明がちゃんと定義という感じになっていなくて、 しかもその説明とは違うニュアンスもたまに含む感じに使われて、結局良くわからん、みたいになる。

善悪とは〜とかも同じ印象を受けた。

全体的に、入門というか、スピノザはこういう事を言っている人なんだな、みたいなのを表面的に触れてみるには良く書けていると思う。 また、著者はちゃんと詳しい人で、自分の知らない事をちゃんと知っている人が説明しているな、という安心感もあり、勉強にはなる。 オーディオブックの聴き放題ではそうでない本に当たる事が多いので、これはちゃんとした専門家が書いている良い本だな、と思った。

一方で、スピノザ哲学の面白さというか、「なるほど!これは正しそうだ!」みたいな思いはあまり湧き上がらない。 また、良くわかった、という感じもしない。 これはオーディオブックで聞き流しているせいという部分もあるだろうし、新書でそういう所まで至るのは難しいという話でもあると思う。 ちゃんと勉強をした方がいい題材なんだろうな。

でもそんなに興味がある訳でも無い自分のような人間には、 本を読んで最後までたどりついたかは結構怪しい。 オーディオブックで聞き流すくらいでちょうど良かった気もする。 スピノザ以外の哲学者についてもこういう本をいろいろ聞きたい。

哲学という学問分野とその意義(はあるのか?)

哲学という学問分野がどういう事をやっているのかが伝わってくる内容でもあった。 これまで一般向けの哲学解説みたいなのはいくつか読んだ事はあったが、そういうのは全く伝わってこなかったので、これが初めてのまともな哲学研究者の書いた本という事な気がする。

この本を読んでいると、なるほど、哲学の専門家はこういうのを研究しているのか、という事は分かった。

一方で既に亡くなった人が何を言いたかったのかを研究することにどれほど意味があるのかは良く分からないなぁ、という気もした。 本人に聞かないと分からない事も多いし、単に間違いだっただけという事もあるだろうに、 それを本人の居ない所で頑張る意義はあるのかなぁ、と思ってしまう。

哲学的な考えで理系の対応するものだと、記号論理のあたりは哲学的なものになると思う。 記号論理的な哲学を学ぶのは皆集合論で学ぶ事になる。 そして集合論的な考えを体得するのは、それを学んだ上でそれを応用する、測度論や多様体や確率論を通してとなる。 そしてさらにそれらを実際の物理学などに応用しようとなると場の理論などに入る事になる。 全体的に短くても5〜6年程度の学習が要求される。

それに対応するような何かを学ぼうとすると、やはり同じような年数で同じような積み重ねが必要に思う。 けれどそれは、一人の著作から可能なのだろうか? 上記の数学や物理の体系は、数百年の積み重ねの結果に思う。 それはある種の約束の上に皆が探求を続けたからこそ得られるものだ。 本書で言う所のデカルト的な近代科学という事になると思う。

こうした数学的な営み以外の所で、同じように何かをちゃんと理解出来る場があるのだろうか? 一人の著作ではそれは不可能な気がするが、そういう数百年掛けて同じ方向性を開拓した何かが数学以外の哲学的な所にあるのだろうか? 無いような気がする。それは哲学的でないように思うし。

またあったとして、それを学ぼうと思えるだろうか? 上記の数学的なものを理解するのは本当に大変で、 それをやる気になるのは明確なご利益があるからだよなぁ、と思う。 哲学的な思索があったとして、それをそれだけのコストを掛けて学ぶ気になるのか?というと、自分は無い。 そもそもに上記の数学的なものだって、ほとんどの専攻の人間はそれらを学ぶ所までいかずに大学を卒業する。 明確にご利益がある分野ですらせいぜい専門課程でドクターに進む、5人に一人程度の割合だというのに、 哲学でそこまでやる気になる人はほとんど居無さそうだよなぁ、と思ってしまう。

そしてそこまでやる気にならないと理解できないのであれば、 そこまでやる気にならない我ら一般人にとっての哲学とはなんなのか?

これは自分のような完全な素人だけに限らず、例えば学部生くらいでも当てはまる気がする。 哲学の専門に進み、学部を卒業した人、というのは、一体何を学んだといえるのだろうか? この本のような内容を何人か学び、レポートなり試験なりで単位を取得したとして、 その人に何が残るのかは良く分からない。

例えば物理科の学部卒業生に記号論理的な哲学は残らず、物理というもののちゃんとしたアカデミックな素養も身につかないが、 そういう人にも線形代数とイプシロンデルタ論法は残り、量子力学の基本的な所と統計力学の表面的な邂逅は残る。 それらには十分な価値がある。

経済学の入門は、むしろその後のマクロやミクロよりも多くの適用可能性がある。 経済学的な考え方は入門で十分学ぶ事ができるし、世の中に応用できるのはむしろ入門の内容という気もする。 さらに学部の後半で学ぶミクロやマクロまで習得していれば、教養として活かす場は十分にある。 学部生が学部の後半の内容をちゃんと習得する事は無い気もするけれど、 入門的な事をちゃんと習得して応用的な事に触れた程度でもそれなりに使える用途はある。

哲学という学問には、そういう浅い所で得られるものがあるのだろうか? 少し触れておくと、そのあとの人生で何かになったりするんだろうか? 一瞬で忘れて終わりのようにも感じられる。 いろいろな思考様式にふれる事で得られる何かがあるのだろうか?あるのかもしれないが、良く分からないなぁ。 例えば高校生が進路に悩んでいる時に、哲学はやめておいた方がいいんじゃないか、とは言いたくなる。 すごく真面目に学べば意義はある気もするけれど、それは研究者になるという事にも思える。

例えばスピノザの善悪の考え方にふれる事で、自分の考える善悪の価値観みたいなのに影響があれば良いように思う。 でもあるだろうか? そういうレベルで影響を受けるには、やはりもうちょっと深く学ばないと難しい気がする。 でもそこまで深く学ぶ気は起こらない。

そういう事をいろいろ考えるきっかけになるという点ではこの本はなかなか良かったと思う。 ちゃんとした哲学というものにふれる機会になる。

スピノザを最初に学ぶのはどうなのだろう?

本書ではスピノザというのは、異端というか主流からは外れているように聞こえる。 デカルトからカントへの流れのようなものが主流なのだろうか。 そうすると、自分のようにデカルトやカントを良く知らない人がスピノザを学ぶのはどうなんだろう?という気もする。

一方でいろいろな哲学者の考えを学ぶ、というのも、現実的なのかなぁ、という気はする。 スピノザの考えを理解するのに本書だけで良いという気もしない。 そもそもにスピノザの研究なんてものを現代でも続けている人がいるのだから、一生をかけても理解出来るのか怪しいものだ。 一人の哲学者でそれな時に、他の哲学者に対しても同じように時間をかけていくのはできそうも無い気もする。

一見するともっと表層的なまとめのようなものでいろいろな哲学者の考えを知ったらいいような気もするのだけれど、 これまで見たその手のまとめ本はどれも酷い出来だった。そうした試みがそもそもあまりうまくいかないとう事なのかもしれない。 もしそうなら、どれかの哲学者についてある程度深堀りを試みて、もういいか、となったあたりで終わりにするのが一般人の哲学との接し方としては妥当なのかもしれない。 ひょっとしたらどこかにはまともなまとめ本があってただ出会ってないだけかもしれないが。

たぶん哲学というものに初めて接する人が学ぶべきはスピノザでは無かった気もするが、 学ぶべきものを最初から順番にしっかり学ぶほどの関心もないので、 オーディオブックで運転しながら聞き流すくらいがちょうど良い気もする。 その程度の聞き方であるならスピノザからでもいいのかもしれない。 結局運転しながら適当に聞き流すだけでは重要な所のいくつかは歯抜けになるし、 それよりも真面目に哲学に接する事が出来る気もしないのだから。

余談:AIの話はさすがに酷い

AIは知性なのか、みたいなはやりっぽい話題もあるが、 主張は「AIは単なるアルゴリズムであって、一方知性とは何なのかはまだ良く分かってないからアルゴリズムにはならないから知性では無い」みたいな内容。これは酷い。 現在の生成モデルが決定論的であるかどうかがすごく曖昧だというのは素人でも分かる事だろう。 哲学の研究者がそうした考えの浅さを露呈してしまうのはどうなのか。

この節は哲学というものを学ぶ意義を疑わせる内容になってしまっていて少し残念。 ただ短い節なので本書全体の価値には影響は無いと思うが。

個人的には現在の機械学習のモデルが知性なのか、みたいな話には大して関心は無い。 なのでこの節も「無ければよかったのにな」と思う程度。