RandomThoughts

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税制の比較の論点

Contents:
  1. 自分が良いと思う財政赤字や累積債務の水準を明示
    1. 理想的には2050年〜2060年時点の累積債務の上限
    2. それで合意が取れないなら当面の目標とする財政赤字の水準
  2. 自分の考える税制で得られる税収の試算を明示
  3. 税の種類の長所短所

選挙のたびに割と出てくる税制の話だが、比較をする為に必要な前提があまり議論されずに優劣を語りがちなので、ちゃんと比較する為には何を明らかにする必要があるのか、自分の考えをまとめておきたい。

自分が良いと思う財政赤字や累積債務の水準を明示

税制を語る大前提として、それだけの税収が必要かという問題がある。 税収の必要性は今年や来年といった短期の財政では無く、ある程度長期的な累積債務の水準が問題となる。

だから必要な税収を語る為には、累積債務がどこまで許されると思っているのかを明らかにする必要がある。 いくらでも構わない、という人と、GDPの30%以内くらいまでしか許されん!とか思う両極端 は、 居ない訳では無いがまぁ例外と言って良いだろう。 大多数はこの間のどこに限界を置いているのか、という程度の問題であって、 そこは立場の違いとしてお互い同意はしなくても理解は出来るはずだ。

理想的には2050年〜2060年時点の累積債務の上限

少し異論が出得るが割と多くの人が受け入れる所としては、 2050年〜2060年の時点での累積債務の上限を明示出来れば、議論はかなりクリアに出来る。 これは高齢化が一番厳しくなる時期で、2050年を選ぶか2060年を選ぶかは人によって分かれる所だが(それぞれ論拠はある)、 どちらでもどんぶり勘定ならそれほどは変わらないので、 これを受け入れればかなりわかりやすい議論になる。

一方で2050年としても結構先の話なので、これを明示するのは難しいという人も居るかもしれないし、 そこまで先のものは重視しない、という人も居るかもしれない。 ここで合意が取れるかどうかは人に依る所なので、 合意が取れるなら2050年の累積債務の上限をお互いに明示してそれを基本に話し合うのが良い。

大きく立場としては、

  • GDPの10倍くらい(5000兆円)まで許せる(財政赤字100兆円くらいの水準でもいい)
  • GDPの6倍くらい(3000兆円)まで許せる(財政赤字で30兆円〜50兆円くらいで収めたい)
  • GDPの4倍くらい(2000兆円)まで許せる(どこかでプライマリーバランスを黒字に転換する必要がある)
  • GDPの3倍くらい(1500兆円)まで許せる(かなり早期にプライマリーバランスの黒字を目指す必要がある)

くらいに分かれるんじゃないか。GDPの2倍以下の人は居るかもしれないが、まぁ少数派という事になると思う。 正直10倍まで許せるならあまり議論する事は無いし、2倍くらいが実現出来る政策を考えられる人もほとんどいないんじゃないか、 と思うので、 GDPの3倍〜8倍のどこかに置く人同士の議論が一番まともじゃないかとは思う。

財政赤字換算は金利の話が絡んでくるが、税制の比較では金利はとりあえず無視して良い気がする(当然金利が上がるからこそGDPの何倍までに収めたいという話になる訳だが、金利の予想は同意は取れないと思うので税制の議論が出来ない)。

なお、自分は4倍くらいでおさめられたら良いと思っているが、6倍くらいでもまぁ仕方ないかもしれない、くらいに思っている。 3倍くらいの人も8倍くらいの人も理解は出来るが、特に8倍は厳しいんじゃないかなぁ、という気もする。

それで合意が取れないなら当面の目標とする財政赤字の水準

2050年の累積債務の上限を基準に議論する事に合意が取れないなら、各年の財政赤字で、許せる水準についての話をするのが次善と思う。

こちらは、単年度なら許せる事と、それが10年と続いても良いのか、という話が出てきて、 しかもいつでも今年は特別に辛いので来年にしよう、と言いたがるものなので、 税金を議論するにはより甘い議論になってしまうが、それでもある程度は水準は示せるだろうし、それなりに理解は出来る同士にはなるんじゃないか。

税金の話は基本的には中期で累積債務にどう影響するか、という話なので、今年一年がどうかはあまり重要では無い。 だから直近の話ではあっても数年くらいでの平均として目標とする水準みたいなのが重要になる。

これもいくらでも構わない、という人とプライマリーバランスが0以外考えられん、という両極端は例外的で、 ある程度はその間のどこかの水準になると思う。 特に昨今のGDPの6%程度の財政赤字(30兆円くらい)をどう判断しているのか、というあたりで大きく差が出る。

  • GDPの20%くらい(増える社会保障費は全部財政赤字でまかなえる)
  • GDPの10%くらい(しばらくは今と同様の穴埋め率でいける)
  • GDPの6%くらい(社会保障費の国庫負担を今程度の水準で収めるため、今後の増加分に対して何らかの対策が要る)
  • しばらくはGDPの6%くらいに収めた上で、どこかで3%くらいに減らしたい(税制、社会保障に大きな改革が要る)
  • 10年くらいのスパンでプライマリーバランス0を目指す(税制、社会保障に大きな改革がかなり急ピッチで要る)

このくらいに分かれるんじゃないか。 自分は今後10年くらいは3%くらいを目指しつつ、その後また6%くらいに戻りながらだましだましやっていくくらいが現実的かなぁ、とは思っているが、もうちょっとゆるくやりたいという人も、もうちょっと厳しくしないとダメだという人もどちらも理解は出来る。

自分の考える税制で得られる税収の試算を明示

債務の方で必要な額はだいたい見えてくるので、次にそれを税収でどれだけ賄うつもりなのか、 という立場を示す必要があるだろう。 これは自分の考える税制ではどれだけの税収が得られるか、の試算と一致しなくては困るので、 試算の結果を出してもらえば良い。

もちろん試算で出てくる額が債務の目標水準を達成するのに足りない場合は、他に何をやって達成するつもりなのかを明示する必要がある。 多くは成長戦略とか社会保障改革(年金改革とか医療改革)になると思うが、 それも何をやってどれくらいの額をへらすつもりなのかを明示する必要がある。 無駄な公共事業を削減、みたいなのは公共事業をいくらへらすつもりなのかを明示する必要がある(し、現状の公共事業の水準を多少減らしても焼け石に水なので他と組み合わせる必要があるはず)。

消費税の20%〜30%くらいというのは単純にプライマリーバランス0を目指して現状の30兆の赤字を穴埋めする数字として有名で、 割と試算も単純計算で出来る(むしろ消費が減るはずなのでもうちょっと上げなくてはいけないという議論は説得力はあるが)。

法人税とか所得税の累進性をあげるという時にはこの辺の試算が無いと比較は難しい。

税の種類の長所短所

上2つを明示し議論する事は、各税についての良し悪しの議論よりもずっと大事だと思うが、 それをクリアしていれば税制の違いを議論する事にも意味はあるだろう。

それぞれの税にはわかりやすくメリットとデメリットがあり、メリットだけの税が無い事はだいたい同意が得られるだろうから。

所得税は累進性があるが現役世代にしか課税出来ないとか労働行動への歪みが大きいので効率が悪いとか。

法人税もある種の累進性があるが、現役世代にしか課税出来ないのと、課税行動に対する歪みは大きく効率は悪い。 特に投資が減る事で経済成長が低下する事と、国際競争力が低下する事の影響は懸念だが、 この効果は良くわからない所がある。 あと狙った税収を得るのはより難しい(租税回避の努力をいろいろする余地が大きいので)。

消費税は高齢者に課税が出来るのと、行動への歪みが少ない事、税収の予想がしやすい(安定している)のがメリットで、 デメリットは累進性が低い事、あと一応消費行動に影響が出得る(買い控えとか)。ただ長期に渡って買い控えるとも考えにくいが。

配当、キャピタルゲインなどへの課税。メリットはある程度の累進性があって高齢者にも課税出来るかもしれない事。 デメリットはおそらく行動への歪みは凄く大きく、効率が悪くて大した税収も得られない可能性がある事、 二重課税などの非効率さ、直接投資が減ると市場原理による適切な資金の分配が機能しなくなる事で非効率になる事。

他にもいろいろ税制は考えられるが、あまり変な税制をすると租税を回避する為に頑張るという無駄なことに皆が労力を使ってしまうので、 あんまりへんてこな税制は良くない。

理論的には消費税と再分配のセットが良さそうに見えるが、再分配が適切に行われる事はあまり無いので机上の空論かもしれない。

自分は、現在の日本は高齢者の比率が随分と高くなってきて、さらに今後しばらくは上がり続けるのだから高齢者に課税出来るかが重要と思うけれど、 そういう高齢者かどうかよりも貧しいか豊かか、という分類を好む人もいるのは理解出来る。 ただここまで多くなって来た高齢者を無視する税なら、相当高い税率にしないと同じ税収にはならないはず。

必要な税収をちゃんと試算して、それを確保するのがかなり難しい事であるという事は理解した上で話をしないとあまり身のある議論は出来ないと思う。