edXの7.06x、Cell Biologyのコース Part3の感想
edXのCell Biology Part2の感想に引き続き、Part 3、Cell Biology: Cell-Cell Interactionsを先程終えたので感想などを書いておく。
細胞生物学とはどういう分野か、などは前回のブログを参照ください。
Part 1〜Part 3まで書いたノート
Part 3 はどういう内容か?
Part 3はCell Cell interactionというタイトルにあるように、 複数の細胞が対象となる。 細胞生物学と聞くと通常は細胞一つと思うけれど、 Part 3は組織の話が入ってくるので一見すると、ちょっと細胞生物学っぽくない。 ただ器官の話は基本的になくてあくまで組織の話で、 しかも細胞内のレベルの話とはつながっていてなかなか深みがあってちゃんと細胞生物学を学ぶ楽しさはある。
Unitのたイトルはなかなか良く内容を表しているので、まずはそれを載せてみよう。
- Unit: Cell Adhesion and Polarity
- Unit: Morphogenesis, Stem Cells, and Regeneration
- Unit: Cell Death and Autophagy
- Unit: Host-Pathogen Interactions
- Unit: Cell Biology of Immune Systems
- Unit: Cancer and Metastasis
1つ目が細胞間の結合に関してで、これがepitheliumなどの組織の基礎となる話で、Part 2のcytoskeletonとの橋渡し的な内容にもなっている。 またこれがPart 1でやったシグナリングpathwayの内容の応用例ともなっていて、ここまでやってきた事の伏線回収みたいな内容になっている。
2のMorphogenesisは細胞生物学の枠を越えている個体形成の内容なので、少し内容も他に比べると表面的。 だが腸の表皮の分化やregenerationの所は非常に細胞生物学的で、詳しく深く学ぶ事が出来る。 また腸のepitheliumの話は当然1のadhesionとの流れがある。 Morphogenesisは独立したコースとして本格的に学びたいなぁ、と思う内容であった。
3のアポトーシスは前2つとは別の話題で、 次のimmune systemの前準備のような内容になっている。 だが細胞という単位で見てきてシグナルpathwayの一例としての側面は強く、 Part 1でやった内容の実例を見ていく事でPart 1の内容を深めていく、という風にもなっていて、 単体でこの話を学ぶよりも深い学び方が出来る。 特にそのまま細胞が死ぬのとアポトーシスで死ぬのの違いとして脂質二重層のコンパートメントという考え方というか感覚は、 非常に細胞生物学っぽさがある。
4はListeriaとサルモネラを例にバクテリアの感染を見る。この4と6のガンの話は細胞生物学というよりは、 病気や感染などを通じて細胞生物学を見る、という内容になっていて、ちょっと細胞生物学という枠には収まっていない。 だがこの4の内容はまさに講師のRebeccaが専門で研究している事で、 それを通して細胞の働きが見えてくる、という主張がすごく良く現れている。 これについては後述しよう。
5 のImmune systemも細胞生物学の内容からははみ出ている内容で、ある程度は薄い表面的な解説になっている。 例えばB-CellやT-Cellの詳細がちゃんとわかったという気はしない。 だが、receptor-ligandやシグナリングpathwayの集まりとしてinnateとadaptiveなシステムを見ていくのは、 細胞生物学的な見方になっていて、ちゃんとここまで勉強しないと理解出来ないような物になっている。 免疫って良く聞く言葉だけど、自分はこれを学んで初めて「おぉ、免疫機構とはこういうものだったのか、ようやく概要が理解出来た」と感じた。 このImmune systemに関してはまだまだわからない所も多かったので、他でもっと詳しく学びたいな、と思う。 一方で細胞のinteractionの例としては良く出来た例なので、細胞生物学の理解を深めるという役割は無事達成出来ているように思う。
6 のガンとその転移は細胞生物学からはみ出た話題で、あくまで細胞生物学に関わる部分を見ていく、という形であって、 ガンを総合的に見ていくのとは違った内容になっている。 すごく小さな一面だけを見ていく感じではあるけれど、一方で細胞生物学的な視点に絞って詳しく見ていく事でわかる事もとても多くて、 ガンというものの理解はとても深まった。 6はこの話だけがどうこう、というよりは、ここまで学んだ事を元にこうした話が理解出来るようになっている、 と体感する事に意味があるようにも思う。特にガンの転移が2でやったmorphogenesisと関わりが深くてそっちの理解を深めてくれるというのは面白い。
なんかmorphogenesisとガンみたいな話は独立したコースとしてもっと深く学びたいなぁ、と思わせる内容である。
4のListeriaを通して細胞生物学を学ぶ話が出色の出来
先にも述べたがUnit 4はサルモネラとListeriaの感染の仕組みを詳しく見る事で細胞の働きの理解を深める、 という内容なのだが、このUnitの出来、特にListeria周辺の話の出来が素晴らしい。
この話を担当しているRebeccaがまさにそういうスタンスで研究をしている模様。
Rebecca Lamason - MIT Department of Biology
ほら、こんなに素晴らしい仕組みで細胞を乗っ取っているのを見るのは驚くし細胞の仕組みがすごく良くわかるでしょう? と言われるのだが、それが凄い説得力で「確かに…」と深く心に響く。 やっている人の人生を掛けた信念を見せられているよう。
サルモネラがPart 1でやったシグナリングpathwayをハイジャックして細胞内に侵入したり、 Part 2でやったmicrotubuleを使ってモータープロテインで伸びていくのを見る事で、Part 1とPart 2の内容が非常に絡まった例を見ていく。
ListeriaもPart 3の前半でやったCadherinなどが出てきたりPart 2のactinが出てきたりして、 これまでやってきた事を総合的に使うような内容になっている。
ここまで長い積み重ねをしてきた事でようやく理解出来るようになる複雑なメカニズムを理解出来る感動と、 こんな複雑な事を細胞一つよりはるかに小さいバクテリアがやっているという事実に生命の神秘というか世界の見え方が変わるような感動がある。 それがまさにこの講師がここまで研究してきた歩みであって、彼女のポスドクの頃の研究とか最近明らかになった事とか、 現在わかってなくて彼女が最近研究している所だとかの話が出てくるのが、 この分野のパイオニアの目から見たこの分野、という感じの話になっていて、 とてもエキサイティングで感動する。 とってつけたエピソードという感じなくて、このコースと深く混じり合った感じで話してくる。
この細胞生物学のコースのPart 1からPart 3までがこの内容を理解出来るようになるために構成されているようで(実際そういう目的でトピックは取捨選択しているはず)、 自分がとても多くを理解出来た事が実感出来るとともに、 そうした事を切り開いてきた人が熱を持って語る細胞の仕組みの面白さ、 まさに研究の最前線を肌で感じてその進展に対するワクワクとかここまでわかってきた事の多さの驚きなど、 単なる授業を越えた、一線の研究者の研究をすごく本格的に教えてもらうような感動がある。
半年くらい掛けないと理解出来ない分量の研究紹介みたいな内容になっている(実際自分は2月から始めているので6ヶ月弱かかっている)。 そういうものって言われてみるとなかなか無いよなぁ。 実際ちゃんと研究を理解しようとすれば本来はこのくらいの分量になるべきで、 このコースはまさにそういうものになっている。 この分野に人生を掛けている人間が、どうしてそれが自分が人生を掛けるに値する程面白いのかを表層だけでなく全てを積み重ねた上で語る、 その説得力と熱量に圧倒される。
生物学の講義という枠を越えて、研究というものをこれだけ深く伝える講義というのは他に存在しないんじゃないか。 たぶんこれは奇跡のような、伝説の講義とかそういうたぐいのものに思う。
このUnitは本当に素晴らしいし、ここまでたどり着くと、そこまで学んできたものが素晴らしい事に気づく。 この素晴らしい内容は、明らかに膨大な積み重ねが無いと理解出来ないし、それらの積み重ねを前提に語りかけてくる相手がいて、それを自分が理解出来るという事に、 喜びと感動がある。
全体のまとめ:生物という物についての深い理解と驚きと感動を伝えてくれる驚異的なコース
Part 1からPart 3の前半は明らかに積み重ねの内容でありつつそれぞれ各Partの終盤にはそれ単体で面白さを感じられるようなケーススタディのような内容がうまく構成されていて楽しく学べ、 しかもPart 3まで来るとそれらがうまく絡み合って大きな世界が見えるという凄いコースだった。
めちゃくちゃ良く構成されているし、内容もめちゃくちゃおもしろいし、凄く深く理解出来る感動がある。
生物学を学ぶ目標としてこのコースを理解出来るようになる事というのを掲げてもいいくらいの素晴らしいコースであるし、 また理解出来る所にいる人は是非このコースをとって学ぶべき、とてもおすすめ出来るコース。