【書籍】正義論
【書籍】正義論
ロールズの正義論、【書籍】今を生きる思想、ジョン・ロールズが酷い内容で、 オリジナルはさすがにこんなじゃないだろう?と思い図書館で借りてきて読んでみているが素晴らしい内容。
なんで解説の新書はあんなにダメなのか…
そして分厚い。重い。
bookwalkerには無い、dolyにはあった。
正義の二原理
無知のベールに包まれた状態の原初状態で合意に至るルールを基盤に社会の仕組みを作るべきで、 その状態で合意に至ると思われるルールとして正義の2原理というのを提唱する。
- 基本的な権利と義務を平等に割り当てる
- 社会的、経済的不平等が正義にかなうのは、それらの不平等が全員の便益を補正する場合に限られる(一番損失を被る人ですら便益になっている)
1章を読んでの感想 2025-08-09 (土)
1章を読んでみた。功利主義との比較の所はすごく良く書かれていて、説得された。 この正義の二原理を元に、実際の日本の不平等が現状適切なのか?とかを議論してもいいのではないか?と思った。
二原理の他にも候補はいろいろあるのでは無いか、という気がするし、現時点ではそれを否定してもいない。 特に2に関してはもっと強い不平等を認める事も、与えられた条件の元での選択である事を差し引いてもあるのでは無いか。 例えば
- 自身に多少不利益でも全体の利益が大きく
- その不利益の負担が十分に公正に(ランダムで)割り当てられる
なら、無知のベールの元でも同意しうるようにも見える。これは功利主義に少し近づくが、ある程度の制約があるような状態になりそう。 自分の感覚ではこの原理の方がより良いように思える。
また、人種差別などは正義に合わないという前提で終わってしまっていて、なぜそうなのか、という事は弱い。 特に現在のように、移民という後から入ってくる人の扱いがどうあるべきか、という事を考える時に、 単に自分がマイノリティーであるかどうか分からない状態で合意されるルールなら人種差別は否定されるだろう、 というのは説得力が弱いようにも思う。
ある程度の混乱が全員にとって損害があり、歴史の結果としての現状にある程度の秩序維持の効果がある事を認めるなら、 そこから変わる事で損害が出るようなものに対して負担を強いるようなルールは、やはり無知のベールの元でも正当化されうるようにも見える。 ようするに既に国民である人の利益を優先し移民に厳しく当たるのは、 自分が移民になる可能性があってもそれなりには正当化出来そうに思う(元の秩序を変化させる自分が悪いので移民になるべきでは無い、とか)。
そういう訳で現代の問題にそのまま解答を与えてくれる議論という訳では無いが、 ベースとして正義の二原理を採択して議論するのは良いように思うし、 また、現状で正義の二原理に反している所で問題が大きい所があるならそこを直すべきなのではないか?という議論もあっても良いように思う。
2章 初期状態の解釈とその場での選択対象の定式化
この章では最初に提示された正義の二原理の解釈について考えていくので、最初に提示する二原理をここに書いておく。 なお、自分が読んでいくのに必要なメモであって、本書の忠実な解釈とかそういうメモでは無い。 12節で第二原理の1と2に対応した話をそれぞれ見ていくが、それが何なのかメモが無いとわかりにくいのでメモしている。
- 第一原理: 各人は平等な基本的自由の最も広範な制度枠組みにたいする対等な権利を保持すべきである(その他の人の自由と両立出来る範囲で)
- 第二原理: 社会的、経済的不平等の認められる条件
- その不平等が各人の利益になると無理なく予期しうること
- その不平等が全員に開かれた地位や職務に付帯すること
格差原理と無差別曲線
リベラルな平等とデモクラティックな平等の話(12節〜13節とその補論)はなかなかわかりやすい話で興味深い。
リベラルな平等が偶然の要素を低減して同じ能力の人が同じ結果になるように務めるもの、 というのは、これもなかなか悪くないように見える。 もっと言えば偶然の要素の影響はどのくらいなくすべきかは結構微妙で、ゼロにすべきという感じもしないよなぁ、と思う。
格差原理だと、無差別曲線が図5のようになって、達成される最大の場所が図6のaになる、というのはなかなか面白い。 ようするにx1の人がより多くを得るためには、x2の暮らし向きを改善する必要がある、という事になる。 つまり制約条件が満たされた均衡では、一番不遇な人の暮らし向きを改善する事がほかの暮らし向きを改善する事を可能にするため、 インセンティブとして一番暮らし向きが悪い人の暮らしを改善しようとする。
これは効率性をある程度追求出来るため、単に格差を無くす事を強制するよりもだいぶ効率が良さそうに思える。 そして格差を是正するメカニズムも内包していて、富む人を貧しくする事で是正するのでは無く、貧しい人を豊かにする事で改善しようとするので、 なかなかうまく行きそうなインセンティブに見える。
貧しい人の暮らし向きが金持ちが金持ちである事でどのくらい良くなっているかは実際はなかなか判定は難しそうだけれど、 考える基本としてこの考え方で考えてみる、というのは悪くない試みのように思える。 現実的な制度設計が出来るかは良く分からないが。
追記: 少し考えてみたが、一番貧しい人の暮らし向きを悪化させない範囲で豊かな人が無尽蔵に豊かになれてしまう気がするが、それはいいんだろうか?必ず一定以上富が偏ると貧しい人がより酷い暮らしになる、とも限らないし、もしそうだとしてもそれを示すのはなかなか難しいよな。
保守の考えとの比較は無いのだろうか?
16節くらいまで読んだ所で、原初状態でどうしてこの2原理が採択されるのか、という方に関心が移ったので少し3章を流し見したが、どうも自分の知りたい事が見つからなかったので読み進める前に自分の疑問を書いておく。
昨今の日本人ファーストとか移民とかの話を考えるための話。
「ある現場の秩序があり、その状態から変更をすると混乱が起きて全員にとって不幸な事態となるため、 現状の分配を基本とした方がいい」という考えを、ここでは「保守的な考え」と呼ぶ事にする。 これが正義の2原理よりも劣る理由が知りたい。
これは今後あらわれる移民に対しての差別をある程度正当化する。移民はそれまでの秩序に無い新しい追加要素なので、 それらがそれまでの分配よりも優先されないのも、保守的な考えからは妥当に思える。 実際、移民などを嫌う人たちの考えはこれに近いものが根底にあるんじゃないか。
これは無知のベールの元でも選ばれうるように思う。自分が移民の側になる可能性があっても、 既存の秩序をベースにした方が安定して良い、という考えはありうるように思う。 自分が移民なら損する事になるが、それでも移民として入ってくるならその覚悟をすべき、というのは無知のベールの元でも考えられそうに思う。
実際、秩序が維持されている、という価値は、移民の問題を見ると割と高いように思う。 これを失うのはかなり高くつく、と考えるのは理解出来る考えだ。 これは自分が移民の場合を考えれば否定される、という事も無いように思う。
既得権益などもこの考えと整合的に思う。 特定の集団が既に得ている立場で利益を得て、それが開かれていない。 けれどそれを維持した方が秩序が保たれるので皆が利益を得るのでその構造は維持した方がいい、 という考えは、例えば貴族制や農奴などに適用出来そうに思う。 そしてこれは自分が農奴であったり非貴族であっても別に同意出来そうに思う(ただしその権限はある程度制約されるべき、とは思いそうだが)。
現状を大きく変えずにちょっとずつ変えていった方がいい、と思う人たちはおおむね現状までたどりついた歴史的経緯を重いものとして捉えて、 あんまり雑に動かすと大きな損失を被る、と思っていると思う。 そして最終的には理想的な状態に至るとは思わず、いろいろと紆余曲折ある過程がいつまでも続くもので、 その過程ことが本質である、と思う人間にとっては(自分はそうだ)、 現状の改善というのはまず理想的な状態があってそこに向かっていく事では無く、 現状の秩序の重さを受け入れた上で現在の大きな問題と思われる所をちょっとずつ改善していく、 というものだと思っているので、 正義の2原理から演繹される数々の仕組みがあって、そこに向かうのが正しいというのはあまり同意出来ない。
そうした現在がそうなっている歴史的経緯の重さを重視する、という考えが原初状態で棄却される理由とかはどこかに書いてあるのかしら? 功利主義との比較は良く見るが、保守との比較もトピック的にはいかにもありそうだけれど。
図書館に返却したのでここまで 2025-08-28 (木)
読みたいところはまだ全部読んでないが返却期限が来てしまったので一旦中断。 やはり電子書籍で買うべきかなぁ。