【書籍】リヴァイアサン
【書籍】リヴァイアサン
Kindle Unlimitedに入っていたので読み始めた。(2025-08-10 (日))
5章まで読んだが、全然社会契約説の話が始まらなくて、 中世っぽい謎の哲学とかストア学派の悪口が延々と書いてある。何これ?
推論とはなんぞやとかそういう事がいろいろ書いてあるが、ラッセル的な集合論よりも前の世界の話なので、 どうしても現代の数学に慣れ親しんだ身からすると「その程度の理解で推論を語るな」という気がしてしまう。
ラテン語でなんというか、とか、古代ギリシャでなんと言われていたか、 とかが何度も出てくるが、なんでその事に言及したのかは最後まで謎、みたいなのばかりで、 当時はラテン語の話をしないといけなかったのかな、という気はしてくる。
ただ、確かに人間について延々と考えているのは伝わってくる。
10章の権力から面白くなる 2025-08-16 (土)
自然科学は今の視点だと何言ってるんだこいつ?状態がずっと続いていたが、権力の話からは人間に対する洞察みたいになってきて、 それは現代でもそのまま当てはまりそうで納得出来るものが増えてくる。 そしてそれは社会につながりそうな話にもなっているので、興味深さが一気に増す。
10章から読めば十分なのでは…という気はするが。
洞察の内容も、自明な事では無くて「言われてみればそうかもしれん」という事が増える。 対等な相手の場合、返せないほどの恩を受けると相手を恨むようになる、とか。
13章の社会契約説の導入から突然完成度が上がる!
同じ書籍とは思えないくらい13章から突然完成度が上がる。 とても説得力があるし現代にもそのまま当てはまりそうに思う。これが歴史に残ったのか〜。 そして12章までは読まなくても良いだろう、これ。
第一部を読み終わっての感想 2025-08-17 (日)
無事最後まで読んだので感想。
13章の自然状態や14章の第一、第二の自然法で社会契約説という話は完成していると思う。15章のそのほかの自然法や16章の集団の人格などの話は、 それに何か関係あるという感じはしない。
ただ、16章の集団の代表的な話はロールズの正義論の原初状態の話とかなり近い気はする。 そして15章のその他の自然法は正義の二原理と同じ分野の話には聞こえる。 そういう点で、後世の書物を読むのには意義はあるかもしれない。
さて、全体について。
9章までは学問とは、とか、推論とは、みたいな話が延々と続く。 そして数学とかはかなり偏った狭い知識しか無く、現代の形式的な数学を学んだ理系の大学生以上にとっては、ずいぶんと稚拙な話だ、と思う事だろう。 ホッブズのいろいろな見解が書いてあるが、 根拠がある訳でも無いし疑わしいものもいろいろある。そして何より、なんでそんな話をしているのかは不明な事ばかりだ。
あとがきには前半で人間の本性について掘り下げる事で、13章の自然状態の万人の万人に対する闘争、という話につながっていると言っているが、 これは適切でない部分もあると思う。
この本は、13章とか社会契約説に向けて必要な話を順序立てて行っている本、という訳では無いと思う。 特に13章以降がほかの章より重みがあるという構成にはなっていない。
むしろ、どの章にも同じような重みがあって、それぞれの章でホッブズがどう思うか、という事がとりとめも無く書いてある、 という方が実態には近いと思う。 結果として、社会契約説とは特に関係が無い話も大量にあるし、 社会契約説を目的とするなら蛇足な話の方がはるかに多い。 スコラ哲学に対する反論やキリスト教の素晴らしさ、何が本当の神の教えなのか、といった事は、 ホッブズ自身にとっては社会契約より下の話題では無かったと思う。 特に神に対する話は、現代の視点からはいろいろとついていけないこだわりを感じる。
だが、学問とか人間とかについての雑多な話を通じて、ホッブズがどういう考えでいるのかという前提がぼんやりと提示されているのは、 社会契約説の萌芽を見るのには、かえって良かったようにも思う。 まだ理論として精緻化されていない細かい個々の主張があるので、 それらがどういう考えを持っている人が言った事なのか、というのを各自で判断出来るのは、 その後の長い社会契約説の歴史から振り返ると、良い事だったと思う。
本書に書かれているおおまかなトピック
本書はおおまかに以下の事が書かれていると思う。
- 人間の認識とか行動とかの起こり
- 数学とか学問
- キリスト教とそれ以外の異教
- 社会契約説
1が4の土台となっている…と言えればいいのだが、そうでも無い。
1は人間の考えとかの起源に関する哲学的な前提というかホッブズの考えで、根拠がそれほどある話でも無いし、それほど驚く深い考えという訳でも無い。 わざわざ見る価値があるという気もしない。 ただ、4の話に関わる事も無い訳では無い。
2は現代の感覚では全く価値が無く、17世紀というのが今とどれほど違うのか、というのを学ぶ歴史的意義しか無い。 数学というと幾何学しか無いのか?みたいな。 100年後にはガウスが生まれる訳だが、この100年はめちゃくちゃ大きかったんだろうな、というのは良くわかる。
3は完全に中世という感じで、現在の感覚でしかもキリスト教徒でも無い自分にはついていけない。 ユダヤ教や古代ローマの宗教などを根拠も無くディスったり、聖書に書いてある事などを真理とした上でそれがどう解釈されるべきか、 みたいな事が長々と書いてあるが、聖書に書いてある事を根拠に正しさを論じられてもなぁ、という感じしかしない。 関係無い話をしているように見える所でも唐突に神の話が挟まったりして、 真実の神(キリスト教の言う神)との整合性みたいな事を説明しようとしたりする。 宗教と科学が分離されていなかった時代とはどういうものなのか、というのを知るのには良い内容となっているが、 そういった歴史的意義しか無いと思う。
社会契約説の周辺の完成度の高さは圧巻
それらに反して、4の社会契約説に関しての議論は異様に完成度が高い。 ここだけ別の人が書いたんじゃないか、というくらいレベルが違うが、 一方で明らかに前半と同じ人が書いたのが伝わってくるものでもあるので、 なんか不思議な本に仕上がっている。
社会契約説は13章と14章になるのだろうが、 10章の権力などの話や11章のその結果としての人々の行動様式は13章の前提となる話なので、10章から社会契約説の導入が始まるといえると思う。 だが唐突に挟まる12章の神の話は、社会契約説には関係がない。
10章からはかなりの説得力があり、現代にもそのまま成立するような事が多くなる。 特に内戦などで混乱が続き、統一した国家としての秩序の維持に失敗しているような状況に関しての考察と思えば、 カンボジアや中米、ネパールなどの割と最近の話として読む事も出来る。まったく救いは無いが。
そしてホッブズは人間の理想などを語っている訳では無い分、人間についての話もより普通で、「人間なんてこんなもんだ」という話は受け入れやすい主張が多い。 こうあるべきだという話ではなく、集まってこういう事をするとこうなる、というような事が書いてあって、 例えばtwitterで延々と戦い合ってる人たちとかの記述になっている。 それは望ましい姿でも無いし理想的な何かでも無いけれど、人間とはそういうものだ、 というのは「そうだね」と思える。 すごく奇抜な主張という訳でも無く、普通の話をしている。
結論も望ましい理想では無くて、現実的にまぁこのくらいになるもんだ、というような話であって、 それは17世紀の国家を説明するものだろうし、現代でも(残念な事に)割とそのまま当てはまるような説明となっている。 新しい理想的な社会を打ち立てようという話では無くて、現状がこうなっているのはもっともな理由があるからだ、という事を説明している本だ。 単に現状を説明するだけなので変な前提があまり必要無く、そしてその結果として説明能力も高い。 それなりに回っている国家をもっと良くしようという話では無く、言ってしまえば志は低い。
例えば、人はバカにされると怒るので喧嘩したくなければバカにするのはやめましょう、みたいな話を否定する人はあまり居ないのではないか。
他方、この本の後発であると思われる、【書籍】正義論とか【書籍】功利主義とかの方は、人間は「こうあるべき」みたいな前提が強くて、 思想としては興味深いが、人間の観察結果が書いてあるというのとは違う。 結果として出てくる話も理想論であって現象の説明とは違い、実際の世の中に照らし合わせて説得力を検証したりも出来ない。 適用出来るシチュエーションもより狭い。 まともな多くの前提が既に満たされている上でさらに良くするという話なので、 その前提が満たされていないと役に立たない上に、前提が満たされた時に本当に役に立つのかも疑問はある(理想とはそういうものだ)。
リヴァイアサンは低い志の到達点とそこに至れない場合にどうなるかの話なので、 実際に現実におきた事と比較して妥当性を考えやすいし、 また、上手くいってない状況を理解するにはとても有用だと思う。 人権とか民主制とかそういう前提がある訳では無く、 もっとレベルの低い状況でも適用出来る話なので、 いろいろなものが全くうまく行かなくなってしまった時にも頼りになる(頼りにしたくはないが)。
難民とかそういう問題を考える時にはこういうレベルの前提は必要だよねぇ。現代で受け入れるには志が低すぎるという批判はあるかもしれないが。
10章からあとはなかなか良い勉強になった、読む価値のある本だった。ルソーやロックも読みたいという気分になった。