今日、edXの728x Molecular BiologyのPart 2がようやく終わった。

締め切りがやけに短い!

このコースは以前とった時にはWeek 3の途中で期限が来てしまってドロップアウトしていた。 そして1月の18日にもう一度始まったのでEnrollしてWeek 3の続きから始めてようやく終わった。 トータルでは3ヶ月くらい掛けていると思われる。

このコース、Part 2とPart 3はself pacedというシステムで好きな時期に始められる奴なのだが、なぜか締め切りがめちゃくちゃ厳しい。 無料プランだと試験が途中から受けられないのと、最後2つのUnitはおまけっぽい内容なので進みがよくなるので後半はなんとかなるが、 前半は期限内に終えるのは無理なんじゃないか。少なくともノート作っていると厳しい。 self pacedなのになんでこんなに締め切りが厳しいのか、謎が多い。

そもそも分子生物学とはどういう分野なのか?

Part 1の感想をブログから探そうと思ったが、感想が無かった。たぶんPart 1があまりにも大変で終わったあと燃え尽きて書けなかったんだろうな。 という事でPart 1も少し含めて軽くここまでの内容を書いておく。

このコースはedXの中にあるMITxというカテゴリのコースの一つで、MITの生物学の授業がベースになっているのだと思う。 参加している人の反応のレベルの高さから考えて、おそらく大学院のコースだと思う(今話している内容とは関係ないかなり細かいタンパク質の名前とかがサクッと出てくるあたり、かなり良く勉強している)。 略称は728x。たぶんxが無いのがシラバスに載る講義の名前というかIDっぽい。

Part 1がDNAのReplicationとRepairについて、Part 2がTranscriptionについて、となる。 このあとPart 3でTranslationがあってセントラルドグマの内容が揃う事になるが、こちらはまだ自分はやってないのでどういう内容かはわからない。

Molecular Biology、日本語では分子生物学だと思うが、この学問は、分子レベルで細胞内の出来事を解き明かそうとする学問と言えると思う。 お隣の706xの細胞生物学は一つの細胞に特化して仕組みを調べてくのがメインで、細胞間の相互作用の話も途中からあるけれど、あくまで個々の細胞を主役として相互作用が個々の細胞の視点からはどう行われているのか、という話になる。 一方の分子生物学は更に細かく、例えばDNAポリメラーゼが実際に働くのに必要なタンパク質やBiochemistryのレベルでの性質など、 個々のタンパク質の生化学的な性質を元にDNAの複製とか転写がどう起きるのか、という事を調べる学問と言える。

さて、言葉でさらっと言ったが、現実としてそんな事が可能なのか?というのはかなり怪しいレベルに困難な取り組みと言える。 Biochemistryのレベルですべての機序を明らかに出来たら、人工生物が作れるのにかなり近い状態と言えるんじゃないだろうか? そして生物はびっくりするほど複雑で、講義の中でも「ここはまだわかっていない」のオンパレード。 バクテリアについては自分の生きている間にかなり解明が進むかもしれないな、とは思えるが、 イースト菌に関してはほぼ絶望的なほどの困難さで、たぶんこのレベルで一通りの理解を得る日は来ないんじゃないか、と思われる。

感覚としては量子力学に似ている。水素原子くらいはわかるんだろうが、これで身近な物質の性質を調べるのは難しいよなぁ、みたいな。

例えば、Part 1の花形、バクテリアのDNAの複製のモデルというのは、以下のアニメーションで概要が見れる。(1:44あたりから複製が見れる)

Molecular Visualizations of DNA (2003) Drew Berry wehi.tv - YouTube

この信じがたいほど複雑な機構の個々の構成要素を化学的に見ていく訳だ。この飛んでくるよくわからん輪っかは何ものなのか? とか、凄い勢いで進めている輪っかみたいなのがどういう仕組みで動いているのか、とか、そういう事を一つ一つ化学反応として見ていく。 こんな複雑なメカを化学反応の組み合わせで作るとか理解するとかってちょっと不可能なんじゃないか?という気分になる。

でも個々を学んでくとちょっとずつ明らかになっていき、実際このアニメーションが作られるくらいの理解が得られる。この複雑なものをこんなやり方を積み重ねて理解している事実に衝撃を覚えるとともに、 一方でこれが生物的にはめっちゃ単純なE.coliで、イースト菌はヌクレオソームとかあるので遥かに複雑になるという、 先の長さもわかる様になる。 人類の、例えば偏頭痛とかをこうしたレベルで理解出来る日は永遠に来ないんじゃないか、という気分になる。

分子生物学を学ぶ意義として、ゲノムの配列がわかっても細胞内にはこんなにさっぱりわからない事が膨大にあるという事をちゃんと理解出来るようになる、というのはあると思う。 素人考えではゲノムの配列とアミノ酸の対応関係を理解すればすべてが理解出来たんじゃないか、という気分になるが、それは全然違うという事が嫌というほどわかる。

Part2 は転写

今回終えたPart 2は転写で、転写の制御は実質すべての内科的な病気や細胞の分化などのすべてであると思われるので、 転写を完全に自由にコントロールできればほぼすべての病気が直せて病気以外のことも不老不死も含めて自由自在になると思われるくらい、 言ってしまえば生物の多くをカバーしている内容と言える。 理解するだけではコントロール出来るとは限らないにせよ、それくらい大きい部分である。 逆にそんな転写なので、全てを理解するのは出来そうにないレベルで難しい。

全体としてはバクテリアとEukaryote(というかイースト菌)の転写の話が半分ずつくらい。

バクテリアはRNAポリメラーゼの化学的なレベルでの詳細と、それに関連するタンパク質を見ていくとともに、 プロモーターなどの転写にまつわるgeneの構造や、それにどういうタンパク質がどう結合して何が起こるのか、 といった転写のメカニズム、 転写が起こる時のステップなどが割と詳細に扱われる。 転写制御に関してはそれらのステップにどういうrepressorやactivatorがあるかを見るという形で、 メインはやはり転写ののメカニズムの方に思う。 とくにinitiation周辺は詳細。

この辺を見ているとバクテリアは人類の理解がかなり進んでいるなぁ、と思う。 自分が死ぬころにはおおむね理解に至っていても不思議は無いと感じた。

一方で後半のEukaryoteは全然わかってないな、という感じが強い。 ここまで何度か出てきたがいまいちなんでこんなのがあるのか良くわかっていなかったヒストンやヌクレオソームが、 初めてその役割を知る事が出来た。 生物の知識無しだとイースト菌とE.coliは似たようなものに思えるが、 こうしたメカニズムを見るとイースト菌はむしろ人間にかなり近いなぁ、と感じる。

ヒストン修正の転写にまつわる影響の大きさは驚きであるとともに、よくこんな複雑なものが動いているな、と驚いてしまう。

ヒストンやヌクレオソームをかいくぐって転写をするという感じはだいぶつかめたので、 そういう点で転写の理解は深まった。 一方で分子生物学のレベルでこの辺を理解出来たか?というと、まだまだ先は長いかなぁ、と思う。 人類は、自分が生きている間にイースト菌を理解する事は出来ないだろうなぁ、という気はした。

最後2つのUnitは割と蛇足感があるが悪くはない

最後2つのUnitはトランスポゾンとCRISPRなのだが、この2つは転写とあまり関係ないし、あまりPart 2の一部としてのおさまりは良くない。 むしろ内容的にはPart 1に入れたかった気もする。 そして内容自体も、転写の話の深さに比べるとだいぶ浅い話になっている。 Part 2の一部では無いが他にも入れづらいので暫定的にここに置いた、という感じなんだろう。

そしてこの2つのUnitはそこまで締め切りがきついとも感じない。なのでこの辺までなんとかたどり着ければ、期限に間に合わす事は出来そう。

他のUnitに比べると蛇足感はあるし浅い話とも感じるが、 そうはいっても分子生物学ではある。 ゲノムのレベルでこれらの理解を深める事は出来て、 そこらの読み物とはやはりレベルが違う。 それなりに流行りの話題ではあるので、どこかでやっておくのはまぁいいか、という気はした。

趣味で学ぶには行き過ぎの内容

お隣のCell Biologyは趣味で学ぶ終着点として本当に素晴らしいものだったが、この分子生物学は趣味で学ぶには専門的過ぎる内容に思う。 専門的というのは深いという意味でもあるが、狭いという意味でもあり、 生物学という分野を知るという目的からは外れているように思う。

なんというか、分子生物学を専門にする人以外は知らなくてもいいだろう、と思うような内容が多い。 例えば医学とか、生物でも別の専門の人ではここまではやらないだろうな、という内容で、 このコースを学ぶのは、この分野を専門にするのか?という事が問われているようにも思う。 典型的な、大学院の後半の内容という感じ。 自分は物理が専門だが、果たして物理をここまで学んだだろうか?疑わしいくらい専門的な内容だ。

けれど、セントラルドグマの部分を「ここまでは普通は知らなくてもいいな」と思える所まで学べるというのは、 この分野の全体像を知るのには良いと思った。 このコースまでやっておくと、この先のやっていない暗闇の領域がどのくらまで続いているのかが、なんとなく感覚でわかる気がするというか、 やってない範囲のあたりがつくように思う。 その為にやるにはちょっとやりすぎな気はするけれど、 すくなくとも十分ではある。

また、ゲノムやこの分野を真面目に研究するとどういう感じかというのは嫌というほどわかる。 バイオテクノロジーやゲノムについてweb上で話す気を無くすくらいには良くわかる。 配列がわかってアミノ酸への対応関係がわかったくらいでは話にならないほどの長い長い探求の道を、 かなりの距離歩いた事になる。 現在人類がどこまで歩いたかを語るのには不足はあっても、 この道がどういう道なのかは十分にわかるくらいには歩く事になる。 それはこの分野を専門にするかどうかを考えるには十分な経験と言えると思う。

そしてこの分野を専門にしようと思う人にとっては素晴らしい内容だ。 実際の実験の経験は別の所で積む必要があるけれど、 論文を読んでいくベースとしては十分な基礎が固められると思う。 実際各Unitの最後にリンクされている論文は2018年とかが多いが、 何の話をしているかはちゃんと分かる。 自分もこうした研究に加わる事は出来そうに思える。

だが、自分はこの分野を専門にしようと思うだろうか? 自分には向いていない気がする。 少し細かい話題過ぎて、このレベルでの理解を進める事に自分の人生の一部を掛けたいとは思えない。 そういう事を大学院に実際に進学してしまう前に気づけるという点でも良いコースと思う。 ある分野を満足して学ぶのを終えられるというのは良い体験だよな。 人生はこういうのを積み重ねて歳をとりたいものだよなぁ。

だけど、Part 3までは是非終えたいともおもっている。 この分野を専門にする気は無いけれど、 それでもここまでやったからには翻訳まで同じレベルで理解したい。 そこまでやったらもう少し応用的な事をやりたいかな。

コースの内容は素晴らしい出来

講義は明快でアニメーションなども使われていてわかりやすく、この情報量をこれだけのわかり易さで伝えるのはただものでは無い。 講師はめちゃくちゃこの問題を良く理解しているんだろうなぁ。 以前分子生物学 Part 2のDarC関連の試験問題が素晴らしいでも書いたように、 試験の内容もめちゃくちゃ良く出来ていて感動する。

そして研究との距離の近さも特筆すべきものがある。 この分野に限らず、講義というものをここまで研究と地続きに出来たものはそうは無いんじゃないか。 しかもめちゃくちゃAdvancedな内容でこれである。 良く講義という形にまとめられたものだ。

このコースのレベルまで学ぶ必要があるか?は議論の余地はあれど、 このコースの内容を学ぼうと思えばこのコースが圧倒的に一番良い内容であるのは間違いない。 そして満足行くまでこの分野を学ばせてくれたこのコースに深く感謝したい。

Part 3もやるぞ!