最近やっているCell BiologyとMolecular BiologyのPart Iの終わりが見えてきたのもあり、 ちょっと現状の自分の生物学の勉強の状況について書いておきたくなったので書いてみる。

今やっている内容

現在は706x Cell Biologyと728x Molecular BiologyのPart Iがそれぞれ残り2週間くらい。 どちらも3つに分かれたコースなのだが、Molecular Biologyの方はPart 1だけでも9 weeksと言っていて、相当の分量。 え?これ3つもやるの?という気分だ。さすがにPart 2は7 weeksと言っているのでこれが3つ続く訳では無さそうだが。 ちなみにCell Biologyの方がPart Iは軽かった。

印象としてはMolecular Biologyの方は学部4年から修士1年の内容という感じで、 Cell Biologyの方は学部3年の内容、くらいの内容に思う。 Molecular Biologyの方がだいぶ難しいが、難しいだけじゃなくて内容が狭く深くという感じで、 専門じゃない人には狭すぎるようにも感じるあたりが大学院に近い内容なのだろうな、と感じる。

一方でCell Biologyの方はここまでの基礎をもとに本格的に生物学の全容に挑むという感じで、 おそらく生物の専攻の学部生を終えるというのはこの内容を修めるという事なのだろうな、と感じさせるような内容になっている。 明らかに生物の専攻じゃない人が入っていても全くついていけないし、 これについていく為には本を一冊読むとか程度では全然歯が立たない。 学部の2年分の下積みが居ると感じさせる内容だ(頑張れば2年の後半くらいで受けられるかも、くらいの内容)。 学部の下積みとかを全て使ってしっかりと学ぶ内容で、これさえ知っていれば生物学の専攻と言って良さそうな内容。

非常に楽しく学んでいる

学んでいる印象としてはどちらも非常に面白い。 正直ここまで発展的な内容を学んでもまだここまで面白いと思っているのは驚きだ。 自分の専攻だった物理よりも生物の方が向いていたんじゃないか、と思ってしまう。いまさらだけど。

Cell Biologyの方は生物についての深い理解が得られたという感覚があり、 高い達成感と満足感が得られた。 ここまでやってきたものが全てつながって、大きな全体像が浮かび上がるというか。 生物をちゃんと勉強したぞ、と胸を張って言えると思える体験があった。 Biochemistryが非常に苦行な感じの下積みなのだが、 それが終わった後じゃないと理解出来ない多くの事があって、 なんかこう、報われた感じがする。 Cell Biologyまでやって終わりにする、というのは一つの区切りとして正しい気はした。 自分はMolecular Biologyにも取り掛かってしまったので両方やるつもりだが。

一方のMolecular Biologyはおそらく最先端にかなり近い内容を学んでいるのだと思う。 より分野として体系化されていなくて、分からない事が多く、 得られている理解が散発的で本当に知りたい所までたどり着けていない結果がたくさんある。 けれど分かっている事に関しては本当に深く分かっていて、 驚きのメカニズムの連続であるし、 究極の理解にたどり着きつつあるという気分にもなる。 というのはMolecular Biologyというのは和訳すれば分子生物学で、名前の通り分子のレベルで生物を理解しようという試みになる。 生物を理解する時に、おそらく分子までの理解で十分だろう、というのは感覚的には同意してもらえるんじゃないか。 量子論的効果がそれほど重要になるというのも考えにくい。 だから分子のレベルで全てを理解すれば究極的な理解が得られたと感じるだろう。 たぶんそれは気のせいで、結局細かく見るだけでは分からない事がいろいろ出てくるとは思うのだけれど。

Molecular Biologyで出てくるのは想像もしてなかったようなすごい複雑な構造物で、 こんなものが生物の細胞の中で動いているのか、というのは凄まじい衝撃がある。 初めて相対論とか不確定性原理とかに触れた時のような、自分の世界に対する認識の変更を迫るような迫力がある。 1900年前後の物理と2000年前後の生物というのは似たような大きさなんじゃないかなぁ、と最近感じている。 今後の30年くらいで成熟に至る何かの途中なんじゃないか。

そんな知的探求の一大グランドクエストの途中で攻略最前線を見るのは、なんかすごいものを見てしまった…という気分になれて、 これを学ぶ面白さというのは他の分野には無いものだなぁ、と思っている。 ちょうど今の人類は、大腸菌とかの単純な単細胞生物をちゃんと理解出来るかどうか、くらいの所に居ると思うんだよね。 それがこの真理に到達出来そうな興奮を生んでいるのだと思う。

一方で大腸菌をここまで細かく知っても人間は遠いな…という部分はある。 それがCell Biologyの方は生物学をちゃんと学んだ、と感じられる一方で、 Molecular Biologyは分野によっては不要な細かすぎる専門的な内容に入り込んでいると感じる所でもある。 なんかそういう判断が出来るようになるというのはある程度の専門性が確立できたという事なんじゃないかなぁ、とも思う。

ここまでの勉強とか今後の予定とか

始めたのは去年の6月っぽい。

生物学を勉強しようと思う - なーんだ、ただの水たまりじゃないか

現在は3月なので9ヶ月ほど勉強した事になる。 普通の学生は他の科目と一緒に専門科目を学ぶのに対し、自分は生物ばっかりやっていたので、たぶん2年分以上はやっていて、 この前やったBiiochemistryが2年の内容、今やってるのが3年〜修士1年の内容にあたるのだと思っている。

で、今やってる Cell BiologyとMolecular Biologyはそれぞれ3 Partに分かれていて、どちらもPart 1が今月中に終わる、くらいの所にいる。 たぶんPart 3までどちらも終えると夏〜冬くらいになると思う。 そこまではやろうかな、と思っている。 かなり大変だけれど、面白かったしPart Iは終わりまでやれそうなので、これならPart IIIまでやるか、という気分にはなっている。

一方でちょっとこれは過剰にやりすぎたな、という気もしている。ここまで勉強する必要は多分無かった。 Cell Biologyだけで終わりにして生理学でも勉強している方がたぶん良かった。 ただもうMolecular Biologyも1/3まで進めてしまったので最後までやろうと思っているが。 そういう訳なので、たぶんここより先はもうやらないかなぁ、とも思っている。分からないけれど。 Cell Biologyの三部作とMolecular Biologyの三部作を終えるまで、が自分の生物学の学習の旅の終着点かな、と思っている。

ここまで学んで見て、生物学を学ぶ事について思った事

以前入門まで学んだ時に、現代社会を生きる上で、成人が現代的な世界の認識を得るためには、大学の入門レベルの生物学は学んだ方がいい、というような事を書いた気がする。 では入門より先を学ぶのはどうだろう?という話をしてみたい。

まず705x Biochemistryより後は教養ある現代人としても、別に必要無いと思う。 大学の入門レベルを知っているか知っていないかは、 食事や栄養を考える上でも病気や医療を考える上でもとても大きな差だけれど、 705xより後の生物学はそういった多様な応用に大きな差が出るという類のものでは無い。 ニュートン力学と電磁気がわかっていれば近似としてはだいたい問題が無いのと同様に、 生物学も入門のコースで得られる知識で近似としてはだいたい問題が無いと思う。

一方で学ぶ面白さという点では思った以上に意義がある。 多くの学問で入門コースにある面白さというのは先に進むとより複雑だけれど曖昧になって薄れていくものだが、 生物学は 706x 細胞生物学のレベルでも非常に重要で基礎的な仕組みがいろいろ新しく登場する。 Nuclear PoreとNLSやNES、ExocytosisやEndocytosisのメカニズムなどは入門コースでちゃんと理解するのは厳しいけれど細胞の基本的なツールであって、 ERとかそういう基本的な細胞の構成要素をちゃんとなんだか理解するにはこのレベルまで学ぶ必要がある気がする。 「ちゃんと分かった」という気分になる度合いが大きく違う。 だから生物について興味があるなら、ちゃんとBiochemistryを学んだ上でその一つ先の細胞生物学を学ぶ意義はあると思う。

728x 分子生物学 は、細胞生物学にくらべると専門性が高く、 生物に興味があっても分子生物学の扱う問題にそれほど興味が無ければ学ぶ必要は無いようにも思う。 ただDNAポリメラーゼのあたりなどは本当に驚きの連続で、 ゲノムやタンパク質の構造推定などがどういう問題かをちゃんと理解したいならこの辺を深く学ぶのは凄く重要に思う。 また、何が「分かってないか」を知るにはこの辺を学ぶ必要があると思う。 どの辺はしばらくは人類には到達出来ない部分だろうなぁ、みたいな肌感覚を得るには分子生物学の知識は非常に助けになる。 ただ「人類がしばらくは分かりそうも無い事」を理解する必要があるか、というと…どうだろうね。 なお、上にも書いた通り究極の理解に至る為の道ではあるので、 そういうのが好きな人には面白いと思う。 かくいう自分も結構好きな方だと思うので、趣味で最後までやろうとは思っている。