学部レベルの知識とは?
今受けていたedXの 700x、Introduction to Biology - The Secret of Life | edX の次のコース、705xの Biochemistry: Biomolecules, Methods, and Mechanisms | edX が開講するぜ、というメールが来た。 このコースを取るかどうかを考えるにあたり、このコースってどのくらいの専門性なのかなぁ、というのが気になり、 少し考えてみたのがこのエントリのきっかけ。
このコースのprerequisiteにはいくつかの入門コースを取っている事を前提としている。 雰囲気としては学部1年ではなくて2年のコースなのかな、という気がする。
北里大学理学部Webシラバス – Just another WordPress site の生物科学のあたりを眺めていると、 学部2年くらいはここ数ヶ月でやった事のある分野が多い。3年からは知らない分野、という気がする。 こちらは学部一年に生物化学というのがあるが、内容を見るとこれはintroductionの中にある奴と同じ内容に見えるので、上記のコースとは違いそう。 対応するコースはなさそうだが、3年次以降の専門課程との間くらいかもしれない。
学部レベルの自分的なイメージ
学部レベル、という事を考える時に、一番想像しやすいのは物理だ。なぜなら自分が物理学科だから。 学部レベルというと、
- 一年: 力学、電磁気
- 二年: 相対論、量子論
- 三年: 二年のはみ出たの、統計力学
という感じで、割と簡単に挙げられる。熱力学無いじゃん、とか多少は人によって追加のものもあるが、 この辺をやっていたら学部の知識があると言えるし、無ければ無いという気がする。 相対論と量子論は習得度の度合いでいろいろで、一年間でちゃんと終えるのはまぁ無理だろうから、ある程度学部三年でやるもの、という気がする。
イメージ的に統計力学をやるかどうか、というあたりがちゃんと物理学科かどうかを分ける所に思う。 一方で統計力学をちゃんと理解した、と思えるのは学部の間には無理と思うし、そういう学部と大学院のはざまみたいなのはどの学科でもあるだろう。
それでも学部レベルといえば上記のリストはすべて入るし、これが全部入っていればまぁ大きな異論は出なかろう。
学部生だってピンキリだし学校によっても差はあるだろう。学部生で学ぶ事、学びはするが現実問題としてはちゃんと習得するのは難しい事、などもあって、 建前と実態の差をどうするかも難しい。 学年の区切りも曖昧だろうし、それぞれどこまでやるか、という問題はついてまわる。 だから乱暴な単純化なのは間違いない。
ただ上記くらいの認識でそれなりの賛成票は得られるんじゃないか。
数学もまぁイメージが湧く。
- 一年: 線形代数、解析の基礎
- 二年: 集合位相
- 三年: 専門ごとに、多様体と位相幾何とか、測度論と実解析や確率論など
学部と大学院の境目がちょっと曖昧だし、二年の後半はなんかあって三年のなにかが二年に来るとかだと思うが、学部の範囲ではだいたいこんな感じじゃないか。
集合位相をやってるかどうか、が、数学科かどうかの一つの条件だろう。 一年と二年は明らかに内容が違くて、教科書の質も露骨に変わる。
また、三年以降は解析か幾何学のどちらかの選択があって、幾何学なら多様体と位相幾何とか、 集合論的に幾何学を捉え直すようなのをやってその上になにか足す感じなんじゃないか。 解析なら測度論をやってその上になにか、という感じが学部レベルというものだろう。 三年にやる事の後半はやはり大学院とのはざまというか、学部でやるんだがちゃんと理解しているのは大学院生、みたいな感じになると思う。 実際実解析とか関数解析とかは、大学院レベルの教科書とはしがきには書いてある事が多い。
二年から三年あたりにかけては、教科書として行間の埋め方みたいなのも意識する必要が出てくる物になると思う。
経済学は何年に何、というのは分からないが、これもそれなりに勉強したので、学部と大学院の区別みたいなイメージはある程度湧く。
- 一年: マンキューの経済入門相当
- 二年: マンキューのマクロ、ミクロ相当
- 三年: 二年のはみ出たの、ローマーとかRBCとか
三年はマクロ経済学に偏ってるのでミクロはまた別になにかあるのだろう。 ローマーとかは大学院レベルの教科書と言われる事が多い気もするが、学部と大学院のはざま的なものなのか大学院なのかは部外者には良く分からない所。 ただ内容的にDSGEというか、ロビンソンクルーソーモデルからちゃんと始めるのが大学院と良く言われている気はする。
経済学関連の記事などでは学部レベルというと2年次の内容を表している気がするが、まともに勉強している学部生ならもうちょっとなにかやっているはずだよな。
学部レベルの一般的な到達度
学部による違いはあるが、だいたい
- 一年は他の学科も学ぶような教養
- 二年はその学科特有と言える重要で大変な何か
- 三年はその学科でも専門によってやったりやらなかったりする事で、大学院の内容とかぶり、学部の間にちゃんと理解するのは厳しいなにか
という感じになっているんじゃないか。
二年でやる内容はその学科のコアというか、他学科からは分からない重要で大変な何かだよな。 一方で二年でやる内容はその学科なら、専門に限らず皆がやる必要がある。
物理で言えば、2年次ならランダウの力学、場の古典論、量子力学は一応全部やったが後半の理解は怪しい、くらいが2年次の知識という想定だ。 それだけやればなかなかのものだろう。怪しい部分を潰せば、ぶっちゃけ大半の学部生よりもレベルは高い気がする。 単位を取れるとちゃんと理解しているの差はでかくて、学部生はこの2年次の内容を、それなりにはやっているがちゃんとは理解してない、くらいだよなぁ。 実際自分は修士だが、ランダウの量子力学の2の理解度は怪しかった。やってない訳では無いがちゃんとやったとは言えないくらい。
で、三年では学部の間にはちゃんとは理解出来ないなにかで、学部によっては専攻によってやる物が変わってきて、 その学科ならみんながやるとは限らない物が出てくるよなぁ。統計力学は皆がやるが、物理はその辺少し変わっている気がする。
自習の到達度的な視点から考えると、 二年までをちゃんと終える、というのが、その分野の専門を学ぶ前準備を終えた、という状態なんじゃないか。 二年までを終えていても、専門を学び始める事は出来ないが、 そこから先は専門を決めないと始められない所で、 また同じ学科の他の専攻からやってきた人がそこから学び直すというのが大学院レベルで普通に見かける範囲という感じ。
また、二年までをちゃんと終えているのは、その学科の人でないと学ばない、 その学科らしい大変な何かを終えているという事で、その学科らしさを備えていると思う。 大学院でそこまで戻ってやり直すのは厳しい、というレベルはクリアしていて、 それなりの追加の準備は必要だけれど大学院から始める事が出来るというラインじゃないか。
大学院で統計力学やってないのは許されないが、統計力学を勉強しながら入ってくるくらいなら許されはするだろう。
生物学だとどうなるんだろう?
生物に当てはめて考えると、自分がやった アメリカ版 新・大学生物学の教科書 や、MITx 7.00x Introduction to Biology - The Secret of Lifeの受講記録 は学部一年と二年の間くらいに思う。 二年まで終えた、という感じはしないが、その学科特有と言えるレベルには入っている気がする。 一方で専攻によるなにかはまだ入ってない気がするので、三年の内容では無い。
なんとなくだが、二年の前半くらいまでの内容で、二年の後半に相当するものが欠けているんじゃないかなぁ。
生物化学、細胞生物学、遺伝子生物学、分子生物学の入門をしっかりやった、くらいだよな。 生物化学、細胞生物学、分子生物学はそれぞれ1段レベルの高い教科書はありそうなんだが、 だいたいそれらは大学院生向けで意欲的な学部生もやれる、みたいな扱いなので、専門によってやらない人もいる、というゾーンに入ってしまう気もする。
個人的には学部二年までの内容をちゃんと勉強しておきたいな、という気はするんだよな。 そういう時に、冒頭のBiochemistryのコースは二年の範囲か三年か、どっちなんだろうね。 雰囲気としては専門じゃないとやらない事が増えてきている感じなので、たぶん二年と三年の間くらいなんじゃないかな、という気がしているが。