5月ごろに買って、途中あいたりしていたが、今日読み終わったジョブズ本。

素晴らしい本で、凄くいろいろと刺激になる本だった。 この前に読んだNo RULES RULESが中身の無い酷い本だったので、その後に読んで凄く衝撃を受けた。

書籍感想: No Rules Rulesを読んだがいまいちだった - なーんだ、ただの水たまりじゃないか

著者の主張は、技術系に関してはあんまり同意出来ないものが多かった。特に一冊目の方は。 まぁ著者はTech系の人じゃないので、そこは自分の考えを信じればよかろう。 ただそういう判断が出来る程度にいろいろ書いてあるので、著者がTech系じゃない事はこの本の価値を損ねてはいないと思う。

自分的なジョブズの凄いと思った事

書籍の著者の言う事には、自分はかなり同意しかねる部分が多い。という事で自分が凄いと思った事を書きたい。

iPadはこの本が言う程凄いとは思っていない。確かにSurfaceはろくでもなかったが、Kindle FireやGalaxy Tabなどと比較して、 そこまで大きく良いとは自分は感じない。実際iPadは机の上で邪魔になった結果、今は電源を切って棚にしまわれてしまっている。 ガレージバンドとかちゃんとクリエーターに使われているデバイスになっているのは凄いと思うけれど。

一方で、iPhoneはこの本で述べられてるよりずっと凄い。 この本では例えば日本の携帯業界をどう変えたか、それがどれほど凄い事なのか、といった側面は全く触れられていないが、自分は結構それに近い場所に居たのでその凄まじさを良く理解出来ていると思う。 iPhone以前のDoCoMoや携帯業界とそれ以後でどれだけ業界が変わったか。 彼らはどれほど頑張って頑迷に抵抗して、そして抵抗しきれなくなって軍門に下ったか。 そしてたぶんそれは日本だけじゃなくて、世界のいろんな事で起こった事だと思う。 業界のそれまでの慣習とか常識とか抵抗勢力を、製品の魅力だけですべて押し流してしまった。 iPhoneは本当に神がかった製品で、それに近いインパクトの比較可能なものすら見当たらないレベルだ。 この本はそのiPhoneの凄まじさを全然伝えられていない。

iPhone程では無いにせよ、iPodも凄まじかった。これも当時組み込み業界にいてmp3プレーヤーとかは自分が関わっていた訳では無いけれど近くで見ていたので、 そのインパクトの凄まじさは良く覚えている。 この本で言うほどiTunesが素晴らしかったとも思わないし、iPodの後に出てきたmp3プレーヤーの中には自分にとってはiPodよりも魅力を感じる程度には比較可能なレベルのものが多く出たが、 iPodの以前のmp3プレーヤーの酷さは本当におっしゃる通りで、 あの状況で本来あるべき姿の製品を作るのは疑いなく偉業であり、手放しで称えたいと思うものだ。 iPodの実際のアイデアにジョブズの影響がそれほどあるようには感じなかったしそれは真実のようにも思うが、 皆の力を正しい方向に集中させるのはあの時代には凄く難しかった事で、 それを成し遂げたのはジョブズの力なんだろうなぁ、と、 当時全然ダメそうな音楽プレーヤーが生まれる経緯を見ていた頃を思い出して比較するに、納得するものがある。 チームや組織をやるべき事に集中させてそれ以外に行くのを防ぐってのがジョブズの凄さの大きな部分のように思った。

iPhoneの次に自分的に凄まじいと思った事としては、音楽業界にオンライン販売を納得させた事がある。 これは凄まじい。しかもこの本を読む限り、ジョブズが自分で交渉しているように見えるし、 実際そうなんじゃないかと思う。 割と似たシチュエーションの出版業界が本当にゆっくりとしかデジタルに移行せず、 いまだに移行してない部分がたくさん残っているのと比較すると、 ジョブズの特別さを大きく感じる。 しかもその理由が、単にジョブズが音楽好きだった、程度にしか思えないんだが… 実際トップが音楽好きってのは凄い重要だと思うんだよな。 出版業界にデジタルの本にそこまで思い入れのあるトップはいないだろうなぁ。 本が好きな奴は紙の本が好きなのが多いからねぇ…

Appleの創業とかMacintoshとかは凄さもあるけれど、 この辺は他にも同じレベルの業績の人は居るよな、と思う。 ジョブズがミラクルだと思う所は、この時代の立ち上げをやっておきながら、2000年代で普通に時代をリードするという、 2つの時代にまたがっている所だよなぁ。こんな人は他にいない。

この本はプロダクト開発の参考になるのか?

この本はとても面白いとは思うのだけれど、具体的に自分の日々の行動でここを参考にすべき、みたいなのはなかなか分かりにくい。 そういうのが明確なのは中身の薄いハウツー本に堕してしまうとは思うので、 参考にすべきかどうか良く分からないのは良い本な事の裏返しにも思う。

時代的な事がまずあると思う。ジョブズが今日本の大学生だったとすると、たぶんただの痛い炎上系ついったらーになって終わりだと思うんだよなぁ。 一方で今ジョブズが健康体だったらいろいろやって幾つかは成功もすると思うので、今の時代では出来る事は無いとは思わないのだけれど。

ジョブズに大きな功績がある事も、そしてプロダクト開発に必要な何かを持っていた事も疑いの余地は無いと思うのだけれど、 何が必要な事で何が必要でない事なのかは良く分からない。 例えば駐車場の障害者ゾーンに停めるとかが必要な事なのか、 大声で社員を罵倒するのが必要な事なのか、 そういうのがどのくらい成功と結びついているか、 そして結びついていたとしてやるべきなのか、というのも良く分からない。

良く分からないというのは、やらなくて良いという訳でも無い。 実際に苛烈さは必要な事だとも思う。 どの部分は取り外せてどの部分は必須なのか、本当に良く分からない。 今の倫理基準に沿う形でああいった成果は出せるものなのか、 自分のやりたいと思える範囲でああいった成果は出せるものなのか。

それでも、凄い物を作ろう、特別な物を作ろう、という姿勢は、自分も持てたらいいなぁ、と思う。 自分はもうそこそこのトレードオフを取ってそこそこの物を作り上げる、という事にはあまり価値を感じず、 それなら自分がやる必要は無いな、と思ってしまう。 そういう立場の自分にとって、そういった姿勢というのは一つ参考にすべき方向性なのかもしれない、と思った。 ただなかなか難しいよなぁ、とも思う。

チームが必要な事に集中させるのは学び取りたい気がするが、どうやったらいいのか良く分からないな。 苛烈な性格というのは効いているとは思うが、怖い人が怒ってるだけでダメになっていく組織なんていくらでもあるからな。 良い悪いはジョブズが判断してて、それが正しい必要はあると思うんだが、それってどうやったらいいんかね。 禅でも学ぶのか?それで良くなる気は全くしないが。 一方で自分で思いつく必要は無い、というのはそうかもしれんと思うな。アイブが思いついて、それを拾い上げられればいい。 それはそうかもしれない、と思う。

ただ良い悪いの意思決定をメンバーにさせてはいけないよなぁ。そうするとやがて凡庸な集団の意思決定になってしまう。 でも自分が行う決定がどうして正しいのか、ってのは本当にセンスに掛けるしか無いよな。 たぶんそれは本質的にはそういう物にも思う。 どれが正解かは分からないけれど、それでも責任を持つ誰か一人が良いと思う物を決めていくのがいい気がする。 もちろん一番マシそうな人が責任を持つ立場であるべきと思うが、それが出来る最善のことなのかもしれない。

トレードオフとか妥協せずに突き詰める、みたいなのはどうなんだろうね。 それで失敗するケースも結構あったけれど、全体的に見れば打率は悪くないと思うし、ホームランも凄い。 あのくらいの失敗で済むなら、意外と突き詰める方がいいのかもしれん。 まぁNeXTとかは全然ダメだったが。

凡庸な組織にしてしまわない事は出来るのか

ジョブズは会社が凡庸になってしまうのをどう防ぐのか、について多くの事を語っている。 そしてこの、会社が凡庸になってしまう事は非常に良く見る現象に思う。 というかほぼすべての会社が一定の成功を収めたあとは凡庸な組織に成り下がってしまうように見える。 そしてたしかにジョブズ復帰後のAppleはそれを避ける事が出来ている。 彼は本当に会社が凡庸になってしまうのを防ぐ方法を知っていて、それを教えてくれているのかもしれない。

もしそうなら凄い話だよな。ある程度成功している会社はとても参考になるという事になりそう。

でも本当か?という気もする。 自分は組織が集団として凡庸な事しかできなくなっている状態というのを見た事は何度もあって、 それは避けるのが難しいと感じていた。

Bクラスの人を入れないように、というのはみんなが考える事だと思うし、 特に成功している企業なら皆そうしていると言うのだが、それでも凡庸な仕事しか出来なくなっている。 だからそれを意識するくらいじゃダメなんだろう。

結局何が必要なのかは、実際に試してみないと分からないよなぁ。

健康の話

健康に関してはジョブズは全然ダメダメだな、と思った。 極端な食生活をして長生きしないって極端な食生活の意義が無いよなぁ。 美味いもん食ってももっと長生き出来るだろうし、もったいないな。

健康はジョブズスタイルはダメだな。普通に西洋医学バンザイでやっていこう。

仕事と人生

ジョブズの仕事は本当に人生と強く結びついていて、それは羨ましいな、と思う。 自分もそういう人生の方がいいんだろうか? ただ今からそんなに働きたいとも思えないんだよなぁ。

正直亡くなるのが早すぎて、自分の人生の終盤と比較するのは難しい部分もあるけれど、 老後死ぬ時ああいう感じなら、人生やりきった感はあるだろうなぁ、と思う。 一方で生き方自体がやっぱり太く短くという感じなので、老後というのと相容れない気もする。

自分はヒューレッドパッカードのような会社を作りたい、とは全く思わないのだけれど、 なんかこう、俺がやらないとこうはならなかった!って事をやりたいなぁ、という気はする。 ジョブズはそれが凄いできてるのでそこは憧れるものがある。

BillGは凄い奴だった

この本では扱いの悪めなBillGだが、かえってそれがBillGの凄さを浮き彫りにしていたように感じた。 2000年代の後半は会社で話を聞いた事もメールを読んだ事もあるので、そうした事と合わせて、やはりBillGは偉大な男だなぁ、と思った。

2000年代後半から2010年代初頭に関してはジョブズの方が凄い成果を出していると思うが、これはジョブズの時代だったから、という気がする。 80年代から90年代のBillGの舵取りの正確さはやはり神がかっているし、ジョブズ評の正確さ、 iPodを見た時の反応などもいい味出している。

そして何より健康で長生きして、自分の時代じゃなくなったら退いて、そこからの活動もなかなか素晴らしいよな。 歳をとるならこう歳をとりたいものだ、という感じの生き方で、 トータルでは自分はゲイツの方が断然好きだな、と思った。 ただ、それではiPhoneは作れないのだろうな。

まとめ

スティーブ・ジョブズ本は素晴らしかった。凡庸な企業の凡庸な話を読むくらいならこの本を読むべきと思う。 物語として面白い。

一方で参考に出来る事があるのかどうかは良く分からない。そういう事から考えるべき本なのかもしれない。