略奪的価格設定とテック業界
マンキューの以下のブログ Greg Mankiw’s Blog: Biden takes a wrong step からリンクされてるpdfを読んでいて、思った事。
pdf自体はAntidumpingと呼んでなんらかの輸入の障壁を作ろうとしている事についての話で、 ダンピングの問題となる略奪的価格設定で市場を支配してから価格を上げる、というのと、 この政策の実態はずいぶん離れているんじゃないか、という話ではある。
その真偽は置いといて、略奪的価格設定というのはwebのサービスとかでは良くあるよなぁ、という話。
略奪的価格設定とかダンピングとか言われるのが何が悪いかというと、 大きな企業がその体力を元にある分野の価格を不当に下げて競合が居なくなるまで耐えて、 その後にその価格を独占価格まで引き上げる、という事が良くないという話。
独占の弊害は社会剰余を元に説明される。 競争均衡より社会剰余が低くなるので全体としては不幸になっている、 というのが一番の根拠で、二番目の根拠には競争均衡では消費者が得るはずの剰余を独占企業が得るのが良くない、 という事だが、後者は心情的にはより重視されがちだけれど理論的には企業と消費者のどちらが利益を得るのが正しいのか、 というのは良く分からない。 この辺の話は価格差別のような事と比較する時には重要になってくるし世間的な感情とは異なる結論になる事も多いのだけれど、 そこは本題では無いのでまぁいい。
マンキューは明確に保守の立場を取る経済学者だが、上記のpdfを読んでいるとそれでも略奪的価格設定は防げるなら防ぐべき、 と明言している。 一方でwebサービスで最初無料で始まって途中から有料化するものなんて幾らでもあるよなぁ、という気もする。 それは本質的には略奪的価格設定である。 ただし、皆が独占を目的にやっている訳でも無いし、小さなベンチャーなどはだいたいは独占は達成出来ない。
無料で始めて途中で有料化、というのがそんなに酷い気はしないのはなんでだろうか?
まず、明確にダンピングと同じ状況になるケースはある。 例えば、DropBoxが最初2GB無料、と言った時に、Google Driveが最初15GB無料と言って、その後にDropBoxのシェアが落ちたあとにGoogle Driveは2GBまで無料にしてそこからは有料にします、 とか言えば、これはダンピングだろう。 OneDriveも同じような行動を取ってた気がする。
ただ最初無料にしてある程度ユーザーがついたら有料にする、というのは、普通はこういうのとは違うよな。 そうした形態が必要と感じるのは、そうした形態でないと新しいサービスを市場に実現するのが難しい、と感じるからに思う。 それは小規模の新しいサービスを念頭においている気がする。
新しい小さなサービスを作る時に、それが何なのかを消費者は知らないので、しばらく使う期間が必要になる。 そこで無料でしばらく評価をしてもらって、そこに価値があると思えばある所からはお金を払ってね、というものに思える。
これが酷い話に思えないのは、これが無ければそのサービスは世に存在しないだろうと思うから…だろうか。 感じとしては無料のおためし版、という感じなんだよな。 一定期間試せるだけで、後からお金は払うもの。 ただこれが略奪的価格設定と区別が難しいのは、期間がどれだけかが作り手側も分からない所。 有料化はしたいのだけれど、思ったよりユーザーが増えなくて有料化出来ません、 というのは良くある話で、ベンチャーやった事があれば誰でもその時期の予想が出来ないのは分かるだろう。 無料が許される期間を法律とかで決めるとかすると良くなる、という気はあまりしない。
一方で独占を目的に明確に不当に安い価格を続けて、独占が達成されたら価格を上げている大手企業もあって、 それらはおそらくもっと批判されるべき事なのだろう。 そういうのをテック業界で見かけても、酷い話だな〜とは思うけれど、 例えばライセンス違反とか個人情報の扱いなどの違反に比べて、同じようなレベルの違法性を感じてはいない気がする。 でも本当は似たような扱いをされるべき事にも思う。 少なくともさきのpdfを読んでいるとこの辺の意識は結構違いがあるなぁ、とは感じて、 マンキューの方が正しい感覚に思う。
でも小さい企業がやる無料のお試しと区別が難しいよなぁ。 成功すればそうだとは分かるんだが、立ち上がった時点でどちらか、というのは良くわからん。 そして小さい企業の無料のお試しを邪魔してしまうのはやめた方がいい気もする。 大手だけ禁止するのも良くない気はする。 この辺、良くない事はあるけれど、良くない事だけを区別して罰する事が出来るのか?という実現可能性の所には疑問もあるよな。
また、サービスの性質として単体で課金すべきか微妙なものもある。 クラウドストレージなどは単に共有するストレージに留める方が良いか、 クラウドのアカウントと紐づいた総合的な何かなのかは良く分からない。 現状はそれほどファイル共有以外の何かが便益を生んでいる感じもしないけれど、 それは自明という気もしない。 ブラウザは今や無料でOSに含まれる事になったが、 かつてブラウザ会社に居た身としては、それは自明では無い事ではある。 一方でユーザーの環境にWebViewが前提と出来ないと困るので、 自動的に全員の元に入って欲しいものでもあるし、その周辺のAPIなどはシステムで提供されていて欲しい。
業界的には、多分もうちょっと略奪的価格設定は酷いものだという認識は共有した上で、 でも現実的にそれだけを防止するのが難しい、というような感覚で居る方がいい気もする。