りんごを食べていて、「うむうむ、糖質をとっているぜ」とか思った時にふと思い浮かんだ事。

りんごを食べて糖質と感じるには、生物学の基礎が必要に思う。 もちろんそんな物が無くても糖質の定義を知る事は出来るし、りんごにそれが含まれていると考える事も出来るけれど、 ここで言いたいのはそういう事じゃない。

糖質、という時には、糖質で無いものも浮かんでいるから、糖質を食べてるぜ、という気持ちになる訳だ。 それでは糖質という事を感じる時に頭に何が浮かぶのか?というと、

  1. 糖質
  2. タンパク質
  3. 脂質

の3つだ。なんで3つかといえば生体内の主要な高分子だからだ。そして本当は脂質は高分子では無い、という事も頭に浮かぶ。

この3つを覚えてもこの糖質という感じは共感出来ない。 この3つが思い浮かぶ為には、それぞれが何なのか、というのを、背後の具体例で知る必要がある。 「うむうむ、糖質」と思う為には、糖質以外との対比が必要にり、そのためにはそれ以外の二要素も頭に概念として浮かぶ必要がある。

それは脂質の時には細胞膜のリン脂質の二重層であり、そこに貫かれた膜タンパク質であったり、トランスポーターやチャンネルなどであったり、GTPaseから始まる一連の反応だったりする。 そうした様々な事から脂質というイメージが出来る。

糖質と言った時には核酸が出てきて、そこではdNTPが出てきてATとGCの水素結合とかmeasure grooveとminor grooveとかいう話や、 二重鎖のunwindでヘリカーゼやトポイソメラーゼが頭をよぎり、そして複製にDNAポリメラーゼとかが頭をよぎる。 そこで糖というものと、Nを含んだ塩基という対比が頭の中でなされて、そこから糖質というものの指す概念が頭の中でくっきりしてくる。 さらにそれとは別にミトコンドリアのクエン酸回路とかが出てきて回転するモータータンパク質とかの写真が頭をよぎって、タンパク質とミトコンドリアの膜と糖の代謝という形で3つの構成要素が頭の中で対比されて、糖質という概念をより確かな物にする。

そして糖質という事を感じるには、糖質では無いタンパク質も重要になる。 タンパク質を考える時にはそれこそポリメラーゼやヘリカーゼ、initiatorとなるORCなどのタンパク質や、ポリメラーゼのholo enzymeになる為のsliding clampやclamp loader、 ダイナミックに道が生まれる微小管とその上を歩くキネシンが運ぶ染色体が頭に浮かび、 その運ばれる染色体には核酸があって糖が思い浮かぶ訳だ。

こうした、糖質でないものと糖質を様々なレベルで比較する事で、糖質とは何か、とか、 炭水化物と糖を同じように感じたり違う物に感じたりする様々な視座、 そして高分子感からセルロースとかも自分の中で配置出来るようになって、 「糖質を摂ってるぜ〜」という気分になるのだ。

こうした事というのは、大学レベルの生物学の入門をちゃんと学ぶ事で得られる。 入門だけで良い、ただし「大学レベルの」。 大学レベルの生物学をちゃんと入門するのは、そこらの生物の本を一冊読む程度では足りない。 入門という言葉から感じるよりはだいぶ大変な作業となる。 それは大学レベルの物理の入門で解析力学と電磁気だけやれば良い、というのに似ている。

具体的には、高校レベルの化学をちゃんと勉強した上で、【書籍】大学生物学の教科書の三部作を読むのが良いと思う。 これは少し上記の感覚を得るにはオーバースペックだとは思うが、 少なくとも十分ではあるし、化学さえ修めていれば自習は出来る。

こういう食べ物とかをちゃんと理解する時には生物学の基礎というのは凄く重要で、それは一人の成人が人生を歩んでいく上では必要な教養の一つと思う。 しかもこれは、入門だけで十分に到達出来る。 世界の見え方が変わる体験であり、それは高校生が物理や化学を学ぶのと同じ理由で学んだほうが良いものと思える。

だが、一方で生物学の入門はどうしても化学が要るので高校生には難しい。 最初は「すべての大人が、「大学生物学の教科書」を読むべき」と書きたかったのだが、 高校レベルの化学をちゃんと修めた人は少なくとも理系に限られるし、 理系の中でもある程度の数はこの条件を満たしていないだろうから、 「すべての理系」とも言いづらい。 そんな訳である種の前提を満たした大人が対象にはなるが、 それは結構広い範囲だろうとも思う。 そしてそうした人のほとんどは大学の入門レベルの生物学を学ぶ事は無いとも思う。 でも生物学の入門を学ぶ事は世界の見え方を大きく変えるとても報酬の大きい事なので、 ぜひ学んだ方がいい。

そうして、りんごを食べた時に「うむうむ、糖質」って思って日々を過ごすと、毎日が驚きに満ちたものへと変わる。