自分の親を見ると、医者とのコミュニケーションがあまりうまく行っているようには見えない。 これは考えてみると割と当然の事に思う。

医療というのはなかなか複雑なもので、そして我々患者は素人である。 しかも医療というのは患者にしか分からない事も多い。 日常の生活で気づく事や、そもそもの目標や望ましい選択も、患者の嗜好による所が大きい。 医療とは、患者からの情報と医者の持つ医療に関する専門知識の両方が必要で、 この両者の協力によって適切な意思決定をしていくという複雑なプロジェクトという側面がある。

一方で普通の人というのは、そんな専門的で複雑な意思決定などに関わらずに人生を送ってきている。 ある種の専門的な意思決定に関わっていたとしても、それは医療とは大きく性格の異なる事なので、 それに近い性質の専門をもつ例外的な人を除けばあまり役に立たない。 うちの親は海に対する高い専門性を持っていると思うが、これは全く役に立つようには思えない。 さらに歳をとると複雑な事に対して長い事正面から向き合うという事に対しての耐性は低下するように見える。 それまでの人生で直面した事があまり無い新しい複雑な事に高齢者が適応する、というのが困難なのは当然に見える。

自分も医療の素人だが、感覚的には患者において大切なのは、パレート最適な選択肢の中で自分の嗜好に合わせたトレードオフを選択する事と思う。 また、パレート最適な選択が行えるように、自身の持っている情報を適切に開示する必要がある。 限られたコミュニケーションの時間で、必要な情報をすべて共有するのはかなり効率的で高度なコミュニケーションを必要とする。 だが、その限られた時間に、サンクコストを延々と嘆いてしまったり、パレート曲線の外側の到達可能で無い所についてばかり思いを語ってしまうというのは、 高齢者の医療では良くある事なのでは無いか。

それがなかなか難しいのは、高齢者でも無ければ専門性があるはずのソフトウェア開発のミーティングで全然そういうコミュニケーションがうまく行かないのを日々見ている我々としてはむしろ当然に思う。

それが当然であるなら、高齢者が良き患者になるためのハウツー本のような物は作れないものだろうか。 医療の専門知識を身につけるのは無理だとしても、患者に期待される事、患者の利益を最大化するために必要な事は、ちゃんと分かりやすく解説出来れば、理解は出来るんじゃないか。 高齢者自身での理解がやや困難でも、周りの親族などは理解出来る程度のものがあれば、それをもとに高齢者を説得する事も出来るかもしれない。

医者と患者はたまに利益が揃わない事もあるが、そういう時に患者側に立ってくれる本であって欲しいよなぁ。セカンドオピニオンとか訴訟とか、面倒な患者である方が良い時は、それを勧めて欲しい気はする。 一方で大多数のケースでは信頼関係を構築して共同作業として共通の目標に進めると思うので、基本はそちらを目指して欲しいし、そのための方策は医療の専門知識のある人に書いて欲しい気もするな。 医者に書いてもらうのがいいのかもしれないが、訴訟とかに関しては医者じゃない方が良い気もするので難しい所だな。 二冊別の本として出れば良い気もする。

高齢化の時代にはなかなか望まれる本になるんじゃないか、というかベストセラーになるんじゃないかね、これ。 そういう本既にあったりするのかしら?あるなら読んでみたいが。