自分は機械学習について、普通の応用はだいたい出来るようになったので、それを使って何か面白い事をやっていきたいな、と考えている。 そこでいろいろと話を聞くと、この「何か面白い事をやる」というのは意外と本質的でない理由から現状は難しいな、と思ったという話。

「機械学習でこんな事が出来たらいいな」という事を考えている人は結構たくさん居る。 最近やばい赤字で評判のドワンゴだが、あそこのリサーチは、最初はそもそもに機械学習を使ってアニメーションの制作を大きく変えるみたいな話だったはずだ。 でもあの頃は今よりもだいぶ生成モデルがいろいろ出来なかった時代なので、 たぶん世界でもっとも優秀な研究者を集めてもやりたい事は出来なかったと思う。 やりたい事が明確で金も人も突っ込んでも、あのタイミングでは実現出来なかった。

一方で、今立ち上げからやったら結構違う結果になったんじゃないか、という気もする。 たぶん今は何か出来るか出来ないかの境界くらいの時期じゃないか。 イケる側かイケない側かの判断は人によって分かれるとは思うが、この辺の感覚は「機械学習屋なら」だいたいコンセンサスは取れてると思う。 一方でこれは年々変わる物なので、現役の機械学習屋しか分からない事じゃないか。

この「いつなら出来ていつなら出来ないか」というのは、相当に難しい問題で、 これを解決しないと何か面白い事、というのは出来ないだろう。 そしてそれは、たぶん機械学習屋じゃないと判断出来ないと思う。

でも、「機械学習でこんな事出来ないか?」と考えている「機械学習屋」は結構少ない。 特に組織を動かしてチームとしてそれに取り組んでいる所は、 自分が話を聞いた範囲ではPFN一社だった。 そしてあそこは「いつなら出来ていつなら出来ないか」というよりも、 「長い時間が掛かると分かっている問題を長い時間掛けて挑む」というスタンスなので、 今出来る事を考える、というのはそんなは頑張ってない印象がある。

これまでソフトウェア開発だったら、なんかビジョンを持った開発者みたいなのが「こんなのあったら面白い!」というのを作るべく起業したりして作っていたと思うのだが、 機械学習屋はそういう起業家マインドがあんまり無い気がする。 機械学習ベンチャーはたくさんあるのだが、そういう人たちは機械学習屋じゃない。 優秀な機械学習屋が立ち上げた凄いベンチャー、みたいなのを見た事が無い。 ソフトウェアベンチャーは技術屋が立ち上げてる場合も凄く多かったが機械学習ベンチャーはそうじゃなくてだいたい名前だけのハッタリになってしまう。

でかい企業じゃないとでかいデータが無いからだ、とか言ってる奴は居るけど、自分は全然そうは思わない。 でかいデータでトレーニングしたモデルは一年くらいで普通のサイズのモデルに追い抜かれているので、むしろでかい企業のメリットは今は少ないと思っている。発展がゆっくりになると規模のメリットがでかくなると思うが、今は少なくともそうでは無い。 2018年に凄く大きなデータでトレーニングしたモデルよりもBERTを少し頑張る2019年のモデルの方がきっとずっと良い性能を出す。 現状ならでかいデータが無くても出来る機械学習の新規性のある事はたくさんあると思う。

それよりは、自分はカルチャーの違いなんじゃないか、と最近思うようになった。 機械学習屋は研究のカルチャーを企業に少しなじませた感じのカルチャーに思う。 それはStanfordとかなら割とヘネシーとパターソンとかそういう感じのシリコンバレー的な物との親和性があるはずなのだが、 なんか日本の機械学習屋は日本の企業内研究所のカルチャーに近い気がする。 (なお、USがどうかは知らないので「日本の機械学習屋」と国の名前をつけているのは、自分が見た範囲は、という意味)

機械学習屋は周りに起業している友人が少なく、起業した友人にちょっと手伝ってよ、と言われて手伝ったりしている経験もあまり無い気がする。 しかもそのあまり無い少しの経験も、だいたいは「AIベンチャー」を標榜した全然中身が無い物で、手伝ったりしたら「自分たちとは違うかかわらない方が良い物」と認識しているんじゃないか。

なんでAIベンチャーを標榜する奴はひどい物ばかりなのかというと、 それで金が得られてしまうからじゃないか。 だから作った物を成功させるよりも、外から投資を受けるのに必要な事に最適化してしまっている気がする。 「俺が第二のビル・ゲイツになる!」という感じじゃない。 なお、私が最初いた日本のベンチャーは「第二のマイクロソフトになる」と表でも中でもずっと言っていた(なお、ならなかった)。

また、時代的に初期の頃は出来る事がいろいろ限られていた。 例えば2015年に本当に機械学習で凄い物を作ろうとしても、まだ難しい応用先の方が多かったと思う。 だから初期の頃は本当に凄い事をやろうとしていた機械学習のベンチャーがあっても、現在まで滑走路が保たなかったとは思う(あったかは知らない)。

だが、2018年ならだいぶ出来る事も増えた。きっといろいろやれたと思う。 2019年はさらに多くなっていて、ここならいろいろ出来るよなぁ、と思う。 だがあんまりこの時代的な変化に合わせてその辺の業界構造は変われていない気がする。 というのは現在ちゃんと最近の話題に適応して物を考えられる機械学習屋は、 2015年とかに機械学習をやっていられたような、余裕のある優良企業に偏っているから、とかあるんじゃないか。 するとわざわざ起業とかはしようとは思わなかったりするかもしれない。

と書いてて思ったが、プログラマも起業自体はそこまで凄いプログラマじゃないケースは多かった気がする。 どっちかというとそこに学生のバイトとかで優秀なプログラマが来るんだよな。 そして大きな成長が始まる。 ただプログラマの方もやはりシリコンバレー的な世界観に親しんでいた、という要素はあったと思う。

機械学習屋はそういうスタートアップにバイトで行く事もあまりなさそうだよなぁ。 むしろインターンで優良中堅ベンチャーとか大企業に行っちゃうよねぇ。

機械学習屋が大学を中退してスタートアップを始めるとかjoinするとか考えにくいが、プログラマはいっぱいそういうのあったよなぁ(最近は減ったが)。 そもそも私が学生の頃バイトしていた(といっても三ヶ月とかだが)eマーキュリーも創業者が東大を中退して起業した会社で、メンバー4人くらいだったよなぁ(後のmixi)。

メルカリとかクックパッドでバイトするのとは、メンタルもだいぶ違いそうだよなぁ。

なんにせよ、腕っこきがスタートアップで世界に挑む事があんま無いよね、機械学習界隈。 そういうのが全く新しい応用方法を企業生命 を掛けて挑む事で新しい物って出来るものだと思うが、機械学習界隈はそういうのがあまり無いので、 面白い応用をやってる所、というのを探そうとすると意外と行く所が無い。

機械学習スタートアップはいっぱいあるんだけどなぁ。 一人も機械学習屋が居ないんだよなぁ、そういうスタートアップ。 やっぱ機械学習屋がやらないとなぁ。